1月30日に放送された『科捜研の女』(テレビ朝日系)の第28話。

中盤まで、トレーナー役のなかやまきんに君は榊マリコ(沢口靖子)にプロテインを渡すためだけで起用されたカメオ出演と思っていた。
(あと、ジムのBGMのBon Jovi「It’s My Life」音量を「パワ〜ッ!」と言いながら上げるくらい)
序盤はチョイ役でそれっぽくない人物が最終的に犯人なのは、“科捜研あるある”の1つ。なんと、今回は被害者・野呂佳代、犯人・なかやまきんに君というキャスティングだった。さすが、1年間の通年放送ということで攻めている。

<第28話あらすじ>消費カロリーを虚偽申告する嘘つき女子アナ


テレビ局のアナウンサー・七海真友(野呂佳代)が自室で殺害され、科捜研メンバーが臨場した。“痩せられない女”こと七海は、バラエティー番組のダイエット企画に挑戦中だった。腕にはスポーツウォッチが装着されており、消費カロリーは410kcalを表示している。しかし、なぜか彼女は死亡直前に大量の出前を発注しており、ピザ、寿司、中華などの配達員が部屋に押し寄せていた。

七海を指導していたのは、厳しさが売りのジム「Queen-body」で、“絶対に痩せさせる女”の異名を持つトレーナー・二宮美音(青山倫子)。美音は七海と口論する様子が目撃されており、疑惑の目は彼女へ向けられることに。さらに、七海はQueen-bodyだけでなく、同ジムとライバル関係で「無理せず、ゆったり」がモットーの「からだゆーとぴあ」にも通っていたことが判明した。なぜ、七海はジムを掛け持ちしたのか? マリコと土門薫(内藤剛志)がからだゆーとぴあのトレーナー・辻井弘明(賀集利樹)から話を聞くと、七海は美音の指導の厳しさに耐えかね、自らからだゆーとぴあに通うようになったとのこと。
七海の部屋に落ちていた葉を調べると京都西霊園にある植物と判明。事件当日は美音の妹の命日だった。
美音の妹はダイエットに失敗、ふらついたままジョギングに出たため交通事故で命を落としていたのだ。Queen-bodyに貼られるポスターには美音のダイエット前後の写真が載っていたが、太っている女性の写真は美音ではなく彼女の妹の姿だった。
七海は1ヶ月近くQueen-bodyには通っていなかった。しかし、からだゆーとぴあのトレーニングでは410kcalも消費しないことが明らかに。実は、七海に頼まれた辻井が代わりにスポーツウォッチを付けてトレーニングしていたのが真相である。七海が痩せていったのは、食べたものを吐いていたからだった。
七海を妹と重ね合わせた美音はダイエット企画をやめるよう七海に忠告し、2人は口論になった。
「嘘つきは嫌い」という七海のツイートを見たQueen-bodyのトレーナー・三谷勝(なかやまきんに君)は、ポスターの秘密が七海にばれたと勘違いをし、七海宅を訪問する。しかし、七海の言う嘘つきとは自分自身のことであった。美音からのメッセージを受けた七海はダイエット企画中止を決心するが、美音の評判が落ちることを恐れた三谷はダンベルで七海を殴打し、殺害した。

ご飯を食べていない設定の野呂佳代


演者の顔ぶれが凄すぎて忘れがちになるが、今回のエピソードは密かにいい話だった。無理なダイエットで妹を失くした美音は、ダイエットに苦しむ人を救いたいという思いを持っている。彼女の悲しき背景は至極シリアスだ。
そういう真面目な部分を、野呂ときんに君の2人が笑いに変えるという流れでこの日の60分は過ぎていった。

そもそもの原因は七海にある。「痩せられない女 VS 絶対に痩せさせるジム」という壮大な企画に起用された彼女は、いきなり挫折した。他人にスポーツウォッチを付けさせるという姑息な手段を選んだのだ。これが判明した途端、SNSでは「野呂最悪だな」という声が散見される状況に……。何しろ、彼女のやってることは安田大サーカス・クロちゃんがよくやる嘘ツイートと全く変わってない。

あと、AKB48在籍時の野呂がバンジージャンプ企画に挑んだ際、サバ読みで体重を軽めに申告したせいでロープが伸び切り、頭が池に着水して死にかけたというエピソードとも少しリンクしている。憎い脚本である。

真面目ブロックを担当しているはずの美音にも突っ込みどころがある。事件前日、七海に会った彼女は異変を感じた。
「久しぶりに会った七海さんは顔色がとっても悪くて……」
「もしかして、ちゃんとご飯食べてないんじゃない? 企画は中止よ」
いや、健康的に食事している七海にしか見えないんですけど……。10キロ落ちた設定ではあるものの、どこからどう見ても元気いっぱいの七海。


ダンベルを手に持ったまま外出するなかやまきんに君


美音に好意を抱いていた三谷は七海のツイートを見て居ても立っても居られず、ダンベルを持ったまま七海の家に向かった。
それを持ってくのか……? ダンベル片手に女子アナの家を目指して外をウロウロする筋肉隆々のタンクトップ男。なぜ、これで目撃情報が得られないのだろう? この辺りから、筆者は観ていて笑いが止まらなくなってきた。
一方、右手にダンベルを握りしめたままの男を家に招き入れる七海。その後、2人は真面目な話をし続けた。なのに、三谷がダンベルを持ったままなのだ。居ても立っても居られず、ダンベルを手放す暇もなかった? いや、そんな馬鹿な。今までにない脚本すぎて、意味不明な画面になっている。まるでコントなシチュエーション。近いうち、この件で野呂は『ゴッドタン』(テレビ東京系)にいじられる気がする。

美音から「元のあなたに戻りなさい」というメッセージを受けた七海は、ダイエット企画をやめると決意した。
「私、ダイエットやめようと思います。私はずっと誰かの理想にしがみついてただけだった。その先に私自身の理想なんてない」(七海)
きんに君の存在そのものを否定するようなことをとうとうと語る七海。

さらに、狼狽する三谷の前でなんと七海は出前を取ろうとした。それも、ピザ、中華、お寿司……太るものばかりだ。顔色が変わった三谷は「ふざけんなよ」と、ダンベルで七海を撲殺した。
「科捜研の女」伝説回決定28話。なかやまきんに君と野呂佳代がいい話を根こそぎ笑いに変えていった60分
イラスト/サイレントT(ワレワレハヒーローズ)

なんでだよ。殺すほど怒ることじゃない。「ダイエットをやめる」と言われ激昂し、鈍器で頭部を殴ったトレーナー。そんな動機は聞いたことがない。低すぎる沸点だ。でも、なかやまきんに君だけに謎の説得力があるのが不思議。まさに、ダイエット・オア・ダイ。

そもそも論として、七海の家にダンベルを持ったまま行くのが全ての過ちの始まりだった。彼のパワーでダンベルで殴れば、間違いなく頭蓋骨粉砕レベル。「筋肉は裏切らない」と散々言っておきながら、きんに君は裏切ってしまった。

神回確定である。“なかやまきんに君が逮捕された回”として、19シーズンの第28話は『科捜研の女』の伝説に刻まれるはずだ。

取り調べで、三谷は後悔の念を口にした。
三谷 「僕はただ、美音さんを守りたかっただけなのに……!」
土門 「守りたかったなんて軽々しく言うな。おまえがしたことは、ただの殺人だ」

今回のきんに君といい、『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)のナイツ・塙宣之といい、癖のある芝居をする芸人の面倒を内藤剛志が見る機会が不自然に多いのは、何か理由があるのだろうか?

今夜放送の29話も凄い。スーパー銭湯が主戦場のアイドルの楽屋で人間の頭蓋骨が見つかったという内容だ。純烈をモデルにしていることは明らかである。前回のユーチューバー、今回のダンベル、そして今夜の純烈と、畳み掛けるようなネタ回の連続。濃すぎる。
(寺西ジャジューカ イラスト/サイレントT@ワレワレハヒーローズ

木曜ミステリー『科捜研の女』
ゼネラルプロデューサー:関拓也(テレビ朝日)
プロデューサー:藤崎絵三(テレビ朝日)、中尾亜由子(東映)、谷中寿成(東映)
監督:森本浩史、田崎竜太 ほか
脚本:戸田山雅司、櫻井武晴 ほか
制作:テレビ朝日、東映
主題歌:今井美樹「Hikari」(ユニバーサル ミュージック/Virgin Music)
※各話、放送後にテレ朝動画にて配信中