2月6日放送『科捜研の女』(テレビ朝日系)第29話は、愛すべき“科捜研あるある”が凝縮されたような回だった。

いつも大量の物からしらみつぶしに証拠を探す科捜研


今回の舞台はスーパー銭湯。十文字政宗なるスーパー銭湯アイドルの楽屋から白骨化した頭蓋骨が見つかったのだ。
ということは、純烈ゲスト回……と思いきや、まさかの柏原収史が“ひとり純烈”を演じる模様。ステージで歌う十文字政宗こと柏原。彼の歌が、また悪くない。そういえば柏原はEXILE加入前のネスミスと「STEEL」というユニットを組んでいたし、兄の柏原崇とバンドを組んでいたこともあった。ギタリスト志向の割に歌もうまいようだ。



早速、榊マリコ(沢口靖子)は政宗のステージを観覧。ファンに応援を強要され、彼女はペンライトを無理矢理持たされた。沢口靖子が柏原収史にペンライトを振るという驚愕の世界が出現!
「科捜研の女」29話は柏原収史に沢口靖子がペンライト振る驚愕の世界。純烈不在のスーパー銭湯アイドル回
イラスト/サイレントT(ワレワレハヒーローズ)

マリコは楽屋から見つかった“素足痕”の当事者を探すべく、政宗ファン全員の足裏を採取し始めた。握手会ならぬ握足会というか。そんな中、ファンの1人である堀之内希和(左時枝)が素足痕採取の場から逃げ出した。彼女にはうしろめたいことがあったのだ。以前、政宗はステージで“いつも持ち歩いている物”として1枚のタスキを紹介した。これが、希和が息子・寛太郎(西尾塁)にあげた物とそっくりだったのだ。
駅伝選手だった寛太郎は病気で心臓手術を受け、その後、駅伝を引退。抜け殻のようになった息子のため、「あんたのレースはまだ終わっていない」と希和はタスキを手作りしていた。

「私が作った物なのか客席からではわからなかったので、近くでよく見たくて楽屋に忍び込んだんです」(希和)
しかし、その拍子に政宗が飲んでいたしじみスープを座布団にこぼし、「汚れた座布団に政宗君が座ったら可哀想」と座布団を持って逃走していた彼女。推しの持ってる物が自分の手作りか気になって楽屋に忍び込むわ、座布団を持ち逃げするわ、ちょっと厄介オタクな希和。

もしかしたら真犯人はこの座布団を踏み、そこに足跡が残っているかもしれない。そして、希和は持ち帰った座布団を宴会場に紛れ込ませていた。宴会場にある座布団全てから素足痕を採取しようと言い出すマリコ。
前回は、大量のダンベルから指紋を採取していた科捜研。いつも、彼女らは何かしら大量の物からしらみつぶしに証拠を探してる気がする。日野所長(斉藤暁)が露骨に嫌そうな顔になっている。

それまでの登場時間が3分以下くらいの奴が犯人


最近の『科捜研の女』は、ほぼほぼモブが犯人である。前回のなかやまきんに君も逮捕されるまではモブだった。科捜研慣れしてくると、チラッと映るモブにまで目が行く。「どのモブが犯人なのか?」と気を付けながら観ることになるので、疲れる。(寺から仏像が盗まれた11話の真犯人がラスト15分辺りに初めて現れた見知らぬ男だったときはコケた)

そして、やはり今回もモブだった。希和の姪夫婦が営む蕎麦屋で、唐突に「すみません! あの頃の俺はどうかしてた」と土下座し始めた姪の夫。相変わらず、それまでの登場時間が3分以下くらいの奴が犯人だ。伏線も何もあったもんじゃない……。いきなり過ぎて、思わずテレビに向かって「お前かよ!」と叫んでしまった。
土下座したこの月島紀彦(三角園直樹)という男が理解できないくらいのクズなので、事件の顛末をざっくり以下に記したいと思う。

家を飛び出た後、街金の取り立てを職にしていた寛太郎。当時の政宗は寛太郎に借金が返せず、返済する代わりに寛太郎の仕事を手伝っていた。闇賭博に手を出し大負けしていた紀彦は、取り立て中の寛太郎を目撃する。寛太郎の手提げバッグには大量の札束が入っている。
その後、紀彦は寛太郎に会いに行き「その金で俺を助けてくれ」と申し出た。裏社会にいる寛太郎を説教するのかと思ったら、ただのクズの紀彦。その申し出を寛太郎は断った。紀彦は寛太郎の金を強奪し、揉み合いの中でナイフで切りつけて寛太郎を殺害した。
「君が悪いんだよ。親戚なのに助けてくれないから……」(紀彦)
「君が悪いんだよ」というクズ理論。サイコパスだ。動機がメチャクチャ。回想シーンが始まって1分以内にクズ化するから驚く。紀彦は日常に潜むクズ。

その後、姪夫婦は希和との同居を望んだが、「寛太郎が帰ってきてから考えよう」と希和は取り合わなかった。
「彼はもう死んでいることをおばさんにわからせなければと思いました」(紀彦)
だから、政宗の楽屋に白骨化した寛太郎の頭蓋骨を持っていった。警察に調べさせることで寛太郎の死を希和に知らせようと考えたのだ。何がどうなったらこんな行動を思いついてしまうのだろう? 「あのときの俺はどうかしてた」って、今も十分どうかしているんですけど……。現在進行形のガチクズ。

今回は脚本も突っ込み切れないほどガバガバだった。紀彦に刺された寛太郎の死体が、なんとずっとそのままだったのだ。数年間置きっぱなし。骨になるまで誰も気が付かない、不憫過ぎの放置プレー。というか、死後2〜3年しか経ってないのにコンクリの上で肉片も残らずあんな綺麗に白骨化しないと思う。

科捜研も科捜研である。紀彦が骨を楽屋に持っていったとき、彼は素手だった。骨が入った袋には紀彦の指紋がべったりのはずだ。普通に袋の指紋を取るのを忘れていた科捜研。何やってんだよ。

いかにも怪しい奴は全然悪くない


政宗からするととばっちりである。借金を作る前の彼は歌手で、駅伝選手時代の寛太郎はよく政宗の歌を歌いながら走っていたという。
「ラララランランラン 走れ ただひたすらに走れ〜♪」

「また、歌で頑張ってみろよ」と寛太郎は足を洗うよう政宗を促し、希和に作ってもらったタスキを手渡した。いや、美談にしているけど、政宗を裏稼業に引き入れたのは寛太郎本人なのに……。
「お前のレースはまだ終わってない」(寛太郎)
いい話でも何でもない。青春ドラマか。なのに、話を聞きながらマリコがらしくもなく涙ぐんでいる。なんだ、この世界は。序盤に怪しさを見せていた者は全く悪くなく、つらい過去を持つ主役としていい話にまとめられるのは“科捜研あるある”の1つである。

ヘヴィなのは希和だ。彼女は息子を殺した奴とずっと同居していたのだ。自分があげた息子の遺品を推しがなぜか持ち歩いているし、推しの楽屋に忍び込んだとき、再会を望んでいた息子(の遺骨)と密かにすれ違っていたし。余生がハード過ぎて、頭がおかしくなりそうだ。

エンディングは例によって、屋上でのどもマリのやり取りである。
土門 「榊はアイドルを好きになったことはないんだろうな」
マリコ 「土門さんはあるの?」
土門 「さあ、どうかな」
マリコ 「誰を好きだったの? ねえ、教えてよ!」

ドルオタ土門。土門薫(内藤剛志)が帰ってきてから、2人の会話は甘さが増した印象だ。会えない時間が2人を「もう離れたくない!」という気持ちにさせ、ハートに火が点いたか?

ちなみに、今夜放送30話のテーマは「節約」だ。予告映像では「ご遺体なら100円で運べます」という理解不能なパワーワードが登場した。どもマリデートで和んだ後、いつも流れる次回予告の破壊力が毎回凄過ぎる。

ジムトレーナー(なかやまきんに君)、スーパー銭湯アイドル(柏原収史)、節約のプロ……。扱われる職業も多岐にわたり過ぎである。
(寺西ジャジューカ イラスト/サイレントT@ワレワレハヒーローズ

木曜ミステリー『科捜研の女』
ゼネラルプロデューサー:関拓也(テレビ朝日)
プロデューサー:藤崎絵三(テレビ朝日)、中尾亜由子(東映)、谷中寿成(東映)
監督:森本浩史、田崎竜太 ほか
脚本:戸田山雅司、櫻井武晴 ほか
制作:テレビ朝日、東映
主題歌:今井美樹「Hikari」(ユニバーサル ミュージック/Virgin Music)
※各話、放送後にテレ朝動画にて配信中