2月20日に『科捜研の女』(テレビ朝日系)の第31話が放送された。

<第31話あらすじ>


川べりで身元不明男性の刺殺体が見つかった。臨場した榊マリコ(沢口靖子)らはポケットから大量の10円硬貨を発見する。
遺体の発見現場には、被害者の指紋が付着した“紫色の手ぬぐい”と、「事件現場」と書かれた“地図”が残されており、犯人による警察への挑戦とも考えられた。遺体の身元は、19年前に失踪した草木染めの染色家・後藤秀春(春田純一)とわかり、半年ほど前から公園で寝起きしていたことも判明した。
一方、現場検証を撮影した映像の中に“紫色の手ぬぐい”を持つ川上夏夫(赤楚衛二)が映りこんでいるのを発見。川上が経営する古着ショップに赴き、本人に事情を聴くが、殺人には無関係で、手ぬぐいも何者かが店に送りつけてきたものだと主張する。しかも19年前、8歳の時に2人組の男に誘拐されたと告白。断片的な記憶を取り戻し、警察に訴えたが取り合ってもらえず、今回の事件を利用して記憶を頼りに書いた事件現場の地図を現場に残したと言うのだが、そのような事件記録は残っていなかった。
しかし誘拐された当時、川上が使っていた防犯ブザーからは後藤の指紋が検出された。さらに、送られてきた手ぬぐいの封筒からも後藤の指紋が見つかった。
後藤の妻・紅子(東ちづる)は誘拐事件の後、後藤が大金を持って草木染工房に訪れたことを明かした。そのお金で彼女は工房を再建していたのだ。このときのバッグからも後藤の指紋が検出される。後藤は大手繊維会社・カクヤマ繊維の社長で夏夫の父親である幸之助(堀内正)に契約を切られた職人だった。

そんな中、後藤のホームレス仲間だったニーチェ(越村友一)が科捜研を訪れ、賽銭泥棒の嫌疑が掛かっていた後藤について、泥棒ではなく500円玉と古い10円玉を両替していただけだと説明した。その後、紅子に草木染の作業を見せてもらったマリコは、古い10円玉の表面の酸化銅と酢を反応させてできる酢酸銅から作る媒染液で後藤が草木染めをしようとしていたことに気付く。
そんな中、夏夫は誘拐されたときの記憶を取り戻した。ピンクが好きな夏夫に対し、後藤は「いつか、ピンク色の布をあげるよ」と約束していたのだ。科捜研はニーチェが後藤からもらったストールを鑑定、ストールの草木染の原料となった「ミヤコヒガン」という葉の生息地である山へ向かう。ここが後藤の殺害現場だった。

後藤を殺害したのは幸之助だった。脱税の発覚を恐れて誘拐の事実をもみ消したことを夏夫に知られたくなかったから、夏夫との約束を果たそうとした後藤を殺したのだった。

誘拐犯に“好き”を肯定され、人生が色づいた夏夫


マリコのファッションを見た瞬間、「冒険が足りない」とマフラーを合わせ、色彩を豊かにしてみせた夏夫。一段と可愛くなったマリコに対し、夏夫は興奮気味に言った。
「ほら、可愛さは正義」

子どもの頃、後藤に誘拐された夏夫。ぶどうを使い、紫色の染め物をしてくれる後藤に、夏夫は誰にも言えない秘密を打ち明けた。
「次はピンク色がいい! 僕ね、ピンクが好きなの。
あとね、レースとかリボンが……可愛いものが大好き! でもね、パパには内緒なんだ」
そんな夏夫に後藤は言葉をかけた。
「好きなものは好きでいればいいんだ」
これが、夏夫にとって全ての契機になる。色、個性、そしてドラマでははっきり明かされなかったが、恐らくセクシャリティについても。後藤とのやり取りをきっかけに、夏夫の人生は色づき始めた。理解してくれない父から独立し、好きを貫く生き方を送る。後藤に肯定してもらい、夏夫は個性を伸ばした。
大人になった今もピンク色のアイテムを必ず身につける姿からも、それは明らかだ。

ピンク色の染め物を作ることができなかった後藤は、「いつか君にピンク色の布をあげるよ」と約束をした。ピンクの染め物を作る場合、使うのは葉ではなく花咲く前の枝である。冬の枝を切って煮出すと春の色、桜の色に染まる。植物は冬の枝に春の色、次の季節の色が眠っている。
後藤はピンク色の布を作るために冬の枝を使わず、枯れ葉と10円硬貨を利用した。

「私にはもう、草木の未来をもらう資格はありません」(後藤)

誘拐事件を起こしたことを悔やんだ後藤はホームレスとなり、そのまま枯れゆく人生を選んだ。若者の未来を奪うようなことは、もう絶対しちゃいけない。でも、枯れ葉は何らかの方法で次の季節の色を出すことができる。枯れゆく側から次の季節への置き土産。誘拐事件を契機に個性を伸ばした夏夫と、夏夫との約束にこだわり続けた後藤の関係そのままである。

謎多き新キャラ「ニーチェさん」の準レギュラー化を熱望!


今回、唐突に最高のキャラクターが登場した。彼は自らを「ニーチェ」と名乗るホームレス。この人が今回のキーマンだった。

初登場からインパクトは絶大。後藤について捜査する土門薫(内藤剛志)と蒲原勇樹(石井一彰)の前に現れ、とうとうと語り始めるのだ。
「なかなかの男だったね。彼は理解していたよ、我々の見ているものがイデアの模倣に過ぎないという事実をね」
ぽかーんとする蒲原を見て、ニーチェさんは言葉を続けた。
「ハハッ、プラトンだよ。ギリシャ哲学ぐらい学びたまえ。イデアとは万物の根本、真の実在だ」
後藤が賽銭泥棒をしていたという目撃情報に対し、ニーチェさんは「目撃されたものが常に真実とは限らんよ。では、僕は捜査に向かう。失敬」と立ち去ろうとした。何の捜査をするのか? 蒲原が確認しようとすると、ニーチェさんはこう返した。
「(土門を指差し)警察は犯人を、(蒲原を指差し)若者は理想を、哲学者は真実を追い求める。それが存在の意義というものだ。違うかね?」
答えになってないんだけど……。

数日後、「10円玉について重大な事実を知っている」という情報提供者が科捜研を訪れた。
「ニーチェと名乗っているようです」
本名を名乗らないのか……。

「(後藤が)神社の賽銭を盗んだとね。僕は彼の名誉と尊厳の回復のために独自に捜査を行い、ある証言を得たんだ」(ニーチェさん)
後藤は賽銭箱から古い10円玉を500円分取り、代わりに500円玉を投入していたという事実をニーチェさんは明かした。
「10円玉をお金じゃなくて銅の塊だと考えたらどうかしら?」(マリコ)
前回のパンスト小銭貯金に続き、硬貨をお金ではなく物質として捉えるマリコの感性は健在だ。後藤の真意に気付いたマリコをニーチェさんは評価した。

ニーチェさん 「君なら垣間見ることができるかもしれないな。万物が宿した真のイデアを……」
亜美 「イデア?」

蒲原に続き、涌田亜美(山本ひかる)までぽかーんとさせるニーチェさん。

亡くなる前の後藤が何の植物で草木染めしようとしていたのか、マリコと蒲原はニーチェさんに確認する。
「あまり内心を明かさない男だったからね。ショーペン・ハウエル曰く、人を饒舌にさせるのは虚栄心……」(ニーチェさん)
何を言っているのかよくわからないニーチェさんの話を遮り、ニーチェさんが首に巻くストールを掴んで「これは草木染めでは!?」と興奮するマリコ。咳き込むほど苦しそうなのに、それでも「そうかね?」とニーチェさんは紳士な態度を崩さない。恐れ入る。
「科捜研の女」31話。準レギュラー化を熱望される新キャラ「ニーチェさん」爆誕!彼の哲学がまた聞きたい
イラスト/サイレントT(ワレワレハヒーローズ)

宇佐見裕也(風間トオル)が出したお茶を一口飲んだだけで「この芳醇で奥深い甘み……。察するに、宇治は白川の菊地茶園の手摘みの玉露だね」と言い当て、「よくおわかりですね!」と宇佐見を喜ばせたニーチェさん。これほどの知識と経験を持つ彼がなぜホームレスになってしまったのか、興味は尽きない。
今シリーズでなくていい。ズバリ、ニーチェさんの再登場を熱望する。これは視聴者全員の願いだ。その証拠に、放送当日のTwitterでは「ニーチェさん」がトレンドワード入りしている。SNSを見ると「またこの人に哲学を語ってほしい」「【悲報】 京都に変人しかいない」というつぶやきが発見できる。『相棒』(テレビ朝日系)のシャブ山シャブ子並みに1度きりの登場ではもったいないと思う。

筆者はてっきり「犯人なのでは?」ともよぎっていたが、全力で謝りたい。準レギュラーになってほしい。

春を感じ、通年放送の終わりを悲しむ


エンディングはどもマリデートで締めるのが恒例なのに、そこにまで乱入してくるニーチェさん。なんと彼は、後藤と同じように草木染めにチャレンジしていた。
「生きとし生けるものが内に秘めた真の色彩……。それは、目を閉じて初めて感じられることもある」(ニーチェさん)

蒲原や亜美と違い、ニーチェさんの言葉に感銘を受け、目を閉じて春の色を感じたマリコ。春はもうすぐそこだ。『科捜研の女』の通年放送も終わりが近付いている。

今夜放送の32話はVS魔性のネイリスト。予告映像では宇佐見も蒲原もネイルをしていた。草木染めの次はネイルアート。今回に続き、次回も「可愛いは正義」な内容になりそうだ。
(寺西ジャジューカ イラスト/サイレントT@ワレワレハヒーローズ

木曜ミステリー『科捜研の女』
ゼネラルプロデューサー:関拓也(テレビ朝日)
プロデューサー:藤崎絵三(テレビ朝日)、中尾亜由子(東映)、谷中寿成(東映)
監督:森本浩史、田崎竜太 ほか
脚本:戸田山雅司、櫻井武晴 ほか
制作:テレビ朝日、東映
主題歌:今井美樹「Hikari」(ユニバーサル ミュージック/Virgin Music)
※各話、放送後にテレ朝動画にて配信中