90年代、携帯電話の普及に伴い、全国に伝播したこの現象。
チェーンメールで広まった「ドラえもんの最終回」
そんなチェンメの中には、こんなタイトルのものが含まれていました。題して「ドラえもんの最終回」。言わずと知れた、国民的アニメのフィナーレを語る内容です。
未完の長寿作品としての宿命なのでしょうか。これまで「のび太が植物人間」「スネオが漫画家」など、様々なラストが囁かれてきた同作。それら全てを原作者の藤子・F・不二雄が「こうした最終回にはしない」と80年代後半に一蹴したため、噂は立ち消えとなっていました。
それから時を隔てた90年代に登場したのが、このメールです。本文に記載された物語も、これまで同様、嘘か本当か分かりません。
しかし、その中身があまりにも緻密に作りこまれて完成度が高く、感動的でした。そのためメールの読者はもちろん、それ読んだ人から伝え聞いた人、さらにはマスメディアまでもが、“本物”と信じ込む異例の事態に発展したのです。
壊れたドラえもんをのび太が修理する感動の物語
物語の概要はこうです……。ある日、動かなくなったドラえもんを発見するのび太。それを修理しようと、未来からドラミちゃんを呼び寄せたところ、バッテリー切れが原因だと分かります。
毎回テストで0点の落ちこぼれは、“ドラえもんを直したい”という一心で、猛勉強を開始。優秀な成績で進学し、最終的には世界有数のロボット工学者へと成長を遂げるのです。そこから研究に励むこと数十年。ついに全ての準備が整い、復活の日を迎えます。
かつての少年は、いつしか立派な髭を蓄えた老人に。緊張の面持ちでスイッチON。すると目を覚ましたドラえもんは「のび太君、宿題終わったのかい?」と一言。子供のように泣きじゃくり、この古い友人に抱きつくのび太。
2005年に同人誌化 後に訴訟問題に発展
物語を考案したのは、名古屋工業大の学生。当時行っていた太陽電池の研究をヒントに、ストーリーを思いついたのだそうです。自身のWebサイト上で公開したところ、瞬く間に評判を呼び、本人の認知していないところでチェーンメール化。
さらには鈴木蘭々などのタレントが、この話をまるで真実であるかのようにテレビで語ったことも相まって、全国的に知られるようになったのです。
極めつけは、2005年の漫画家・田嶋安恵による、“のび太発明社説”の同人誌化。彼が描いた作品は爆発的に売れて、同人誌としては異例の1万3000部を販売します。
さすがにそこまでのヒット作となっては見過ごせないと、小学館と藤子プロ側は、田嶋氏に著作権侵害を通告。ほどなくして、田嶋氏は謝罪し、売上金の一部を藤子プロに支払う事態となったのです。
映画『ジュブナイル』の原案に採用
このような騒乱を巻き起こしながら、今ではすっかり風化してしまった“のび太発明者説”。しかしこの物語、同人誌だけではなく、吉岡秀隆と香取慎吾が出演し話題となったSF映画『ジュブナイル』にも、大きな着想を与えているのです。
実際、監督の山崎貴もそのことを認めており、エンドロールには、原作者である学生と、本当の原作者「藤子・F・不二雄」の名もクレジットされています。
ここまでの影響力をもった要因として考えられるのは、やはり愛。作中、のび太が注いだのと同じくらい、深いドラえもんへの愛情をもって描かれた物語。そこへ込められた想いに世間が共感した結果ではないでしょうか。
二次創作の究極系にして、行き過ぎた例として今後も語られていくに違いありません。
(こじへい)
※イメージ画像はamazonよりクイック・ジャパン76 (Vol.76)