タイトルは、「力人伝説 鬼を継ぐ者」。現在「少年ジャンプ」では、相撲マンガ「火ノ丸相撲」が人気連載となっているが、若貴兄弟も、ジャンプヒーローの一員だったのである。
連載は、1992年末にスタート。「ドラゴンボール」や「スラムダンク」、「ジョジョの奇妙な冒険」など、レジェンドクラスの連載目白押しの時代である。
千代の富士も登場 ストーリーは?
ストーリーは同年の5月、夏場所初日の場面から始まる。
この日は、昭和の名横綱・千代の富士と貴花田(当時)の初めての取り組み。貴花田はこの時点で幕内わずか4場所目。入門以来、幕下昇進や三賞受賞など、大相撲の最年少記録を塗り変えながらの横綱への挑戦となった。
「待っていたぞ 貴花田…… おまえがここまで上がってくるのを……!!」
そんな若者の挑戦に対し、<ズオオオオ>という擬音とともに、「ウルフ」の名にふさわしい鋭い眼光を見せる千代の富士。そのオーラ、ラオウやフリーザ、まさに、ジャンプマンガのライバルそのもの。貴花田もビビる。
「やはり似ているな父親に……」
花田兄弟の父である、先代の貴ノ花との思い出を振り返る千代の富士。取り組み前日、偶然街角で出会った若貴兄弟に、横綱は言う。
「明日の対決で おまえたち兄弟に渡すものがある しっかり受け取れよ」
千代の富士が、大相撲の未来を担う花田兄弟に「渡すもの」とは何なのか、それは、二人の父・藤島親方(元大関貴ノ花)も、兄・若ノ花から渡されたものだともいう。
そして。「はっけよい!」行司のかけ声とともに、ふたりは激突するーー。
なんとも「ジャンプ」らしい、アツい少年マンガである。
作画は「デスノート」などの小畑健
原作・宮崎まさる。作画を担当したのは、小畑健。のちに「ヒカルの碁」や「デスノート」で大ヒットをとばす前の時代である。
物語はそこからふたりの少年時代にさかのぼり、その成長が描かれる。作中に登場するお母さん(藤田紀子)も、若くてキレイだ。
中盤、これもまた、少年マンガの王道らしい展開として、強力なライバルキャラがふたりの前に立ちはだかる。
新弟子検査の日に出会ったその男は、2メートルを超える巨体の浅黒い外国人力士。その名は、ローウェン・チャド・ジョージ・ハヘオ。そう、後の第64代横綱・曙だ。
「あれが花田兄弟だ よく覚えておけ」
そうささやくのが、彼の親方、東関親方(元関脇・高見山)である。東関親方自身もまた、彼らの父のよきライバルであった。この二世代に渡る因縁、選手とコーチのタッグバトルみたいな設定、そんなところもまた、バトルマンガらしい見せ方だ。曙は、こう口にする。
「アイ・ウォント・トゥ・ビー サムバディ……」
バスケや野球ではだれにも負けたことがなく、目標を見つけられなくなっていた曙が、ようやく見つけた、自分が目指す「サムバディ(何者)」。それが、「横綱(グランドチャンピオン)」だった。
貴花田との初対決は曙に軍配があがる。しかし、「あんなスゲェ奴がいると思うと なんだかワクワクしてきちゃってさ……」と、孫悟空のようなセリフを口にしながら、翌日笑顔で稽古する貴花田。
切磋琢磨しながら成長し、冒頭の千代の富士との取り組みにたどり着いたところで物語は幕を下ろす。
わずか21回で連載終了に……
実在の人物を題材にした作品でありながら、きっちり「ジャンプ」マンガでもあったこの作品。しかし、世の「若貴フィーバー」に乗って、作品も大きくフィーバーすることは難しかったのか、わずか21回で連載終了している。
単行本最終巻3巻の作者コメント欄によると、連載の取材を始めたころまだ平幕だったふたりは、ちょうどこの最終巻が発売される直前に、兄弟そろって大関に昇進していた。
<若貴兄弟が、父の見果てぬ夢、「横綱」を目指す現実という名の第4巻を、この後もお楽しみください!!>
作者の言葉のとおり、その後ほどなくして、ふたりはそろって角界を代表する名横綱になる。
すでに若貴兄弟の引退から十数年の月日が流れている。あの日、千代の富士から受け取ったもの、次に受け取ったのは誰だったのだろうか。
(太田サトル)
※イメージ画像はamazonより力人伝説 1―鬼を継ぐ者 継承戦 (ジャンプコミックス)