石原さとみといえば、7月29日に公開を控える「シン・ゴジラ」を始め、いまや日本映画のメジャータイトルに欠かせない女優。一方、天然系からシリアスまで多彩な顔を使い分け、最近では結婚も発表した上野樹里。

この2人が姉妹役を演じた朝ドラがあったのを覚えているだろうか。2003年秋~04年春に放送された「てるてる家族」だ。

美人4姉妹 モデルはいしだあゆみの家族


「てるてる家族」は、作詞家で小説家としても知られるなかにし礼のベストセラー「てるてる坊主の照子さん」が原案。長女はグルノーブルオリンピックへの出場経験を持つフィギュアスケート選手の石田治子、次女は歌手で女優のいしだあゆみという、絵に描いたような2人を含めた4人の姉妹とその家族をモデルに、実話を絡めたコメディタッチのストーリーだ。
なお、石原さとみが演じた本作のヒロイン・冬子のモデルは四女の石田ゆり。歌手デビューの経験を持つ、原作者・なかにし礼の妻である。

ドラマの舞台は大阪府池田市。4姉妹の父・春男が経営する製パン店と、流行に敏感な母親の照子が開業した喫茶店を中心に展開する。昭和28年、放送が始まったばかりのテレビを置いた“テレビジョン付き喫茶店”が大当たりした。

美人4姉妹のそれぞれ


その手腕を買われて大阪の中心・梅田のスケートリンクの食堂の経営を任された照子は、長女の春子と次女の夏子にフィギュアスケートを習わせる。春子はそこで力をつけ、やがて日本を代表するフィギュアスケーターへと成長。
一方の夏子は早々にスケートをやめてしまうが、ジュニア選手権での演技を見に来ていた芸能プロダクションのマネージャーの目に留まり、芸能界への道を歩み始める。

スターダムにのし上がっていく2人の姉とは対照的なのが三女の秋子だ。ちょっと大人びた性格で成績優秀な秋子は、自宅の近所でインスタントラーメンの発明に情熱を燃やす奇妙な博士(日清食品創業者・安藤百福がモデル)や、芸術家・岡本太郎に魅せられた怪しい男らとの出会いを経て、普通の日常のなかに創造性を求めるという独自の生き方を見出していく。


そんな3人の姉に対して、鳴かず飛ばずなのが四女の冬子。スケートにも大して興味を示さず、学校の成績もぱっとせず、それらに若干のコンプレックスを抱くものの、基本、マイペース。モットーは「なるようになる」。向上心を抱きながら健気に頑張るといった朝ドラヒロインの王道とは真逆のキャラと言える。
ここ数年の朝ドラではわりと珍しくないパターンだが、「てるてる家族」の冬子はその走りと言っていい。当時17歳の石原さとみの素が現れたような天然キャラの魅力が十分引き出されていたといえるだろう。

劇中で急に熱唱! ミュージカル仕立ての斬新演出


そんな「てるてる家族」の、朝ドラの常識破りといえたのが、ミュージカル仕立ての演出だ。時代背景となった終戦直後から昭和40年代半ば頃までの、世相を反映する流行歌や映画音楽などがほぼ毎回流れ、演じている俳優たちが唐突に歌い出し、踊るのだ。
しかも時には衣装を変えたりどこからともなく現れた小道具を手にしながら。それはもうインド映画も顔負けなほどに。その楽曲数は全話通じて60曲以上に及ぶ。

当然、石原や上野もガンガン歌う。中でも、4姉妹揃ってマンボを踊りまくるシーンは伝説というべき代物。
さらにきわめつけといえるのが、いしだあゆみがモデルの夏子を演じた上原多香子が、いしだの大ヒット曲「ブルーライトヨコハマ」を紅白歌合戦で歌うシーン。それまでの夏子の苦労がようやく実を結んだ感動の瞬間だ。
その感動の余韻を逃すまいと、うえはら名義による「ブルーライトヨコハマ」のCD発売まで実現している。

「てるてる家族」がDVD化されない訳


ドラマの後半は、冬子が母・照子の後押しもあり宝塚音楽学校へ入学。一度はスターの夢へと進もうとするが、悩んだ挙げ句、いかにも冬子らしい決断を下す、という方向で大団円を迎えることになる。
ただ、これだけ話題満載の「てるてる家族」。視聴率こそ朝ドラ史上初めて平均視聴率が20%を割るという数字が残っているが、一方でネットを通じて話題が盛り上がるなど、それまでの朝ドラにはない現象を引き起こした“記憶に残る作品”と絶賛する声もある。

ところが、総集編やイイトコどりのスペシャルこそソフト化されているものの、全話収録のDVDが未発売のままなのだ。その理由は、無数に登場する歌パートの中に洋楽が複数含まれているなどの理由から、ソフト化における著作権の許諾が極めて難しかったからなどと言われている。事実、リリース済みの総集編などからも洋楽はカットされている。

もはや全話視聴は不可能かと思われていた「てるてる家族」だが、嬉しいことにこの春からNHK BSプレミアムで再放送が始まっている。すでに開始から2ヶ月以上経過しているが、まだまだ見どころは満載なので、「トト姉ちゃん」より少し早く起きて、ぜひチェックしてみて欲しい。

(足立謙二)

※イメージ画像はamazonより連続テレビ小説 てるてる家族 総集編 [DVD]
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