北は玄界灘、南は有明海に面している佐賀県。このうち珍グルメが多いのは後者。有明海は、干満差が最大6mもある広大な干潟をもつことで有名だ。

おそらく有明海でもっともよく知られた生き物「ムツゴロウ」は、有明海や八代海の干潟に生息している水陸両生魚。干潮時に干潟をピョンピョンはねる姿は何とも愛嬌があるが、食材としてもおなじみ。有明海を一望できる「道の駅 鹿島」には、小ぶりのムツゴロウが売られていた。

今回は佐賀市内の割烹「津田屋」で、有明海料理を堪能することに。まずは、ムツゴロウから。

ムツゴロウは傷みもはやく、臭みもあるので、半日ほど泥をはかせたら、すぐに素焼きにする。今回食べたのは、素焼きを甘辛く煮つけたムツゴロウ。骨はかためだが、身はやわらかく、淡泊な白身に濃いめの味付けが好相性だ。
続いてはムツゴロウと並ぶ珍魚「ワラスボ」。有明海にしかいないハゼ科の魚で、映画『エイリアン』に出てくる宇宙生物に似ていることから、「エイリアンのような魚」ともいわれる。ちなみに佐賀市が2015年に制作したワラスボをテーマにしたプロモーションムービー「W・R・S・B」は、再生回数が26万回超えており、ひそかに話題の魚でもある。

白身魚を思わせるあっさりした味わいで、見た目に反して上品。干物にしてあぶって食べることが多いが、新鮮なものは刺身で食べたり、ふぐのひれ酒のように酒に浸したりすることもあるという。

もうひとつ、見た目のインパクトこそ前出の2種に劣るが、佐賀の初夏の風物詩「エツ」もはずせない有明海グルメ。カタクチイワシ科の魚で、日本では有明海にしか住んでおらず、産卵する今の時期だけ筑後川をさかのぼる。

エツの漁期は5月1日~7月20日まで。煮物や塩焼きなどいろいろな食べ方があるが、鮮度が命なので、とくに刺身はほかの土地で食べるのは難しい。そのため、シーズンにわざわざ佐賀までエツを食べにくる人もいるとか。

ハモのように骨が多く、料理人の骨切りの技術も必要とされる。身はあっさりとしてクセがなく、のどにひっかからない程度のさりげない小骨の存在感が小気味いいアクセントになっている。
こうした有明海の珍味を佐賀県民が日常的に食べているわけではなく、県民であっても食べたことがない人も少なくないそうだ。ただ、前述のように道の駅にはムツゴロウの素焼きのほかに、乾燥ワラスボも売られていたから、その気になれば簡単に手に入る。エツもシーズンには地元のスーパーに並ぶこともあるそうだ。

旅行者なら地元の食材にこだわる居酒屋や割烹へ行けば気軽に味わえる。ちなみに今回食事をした津田屋では、エツづくしのコース料理(3400円~)を7月中旬まで提供中だ。
また、有明海料理ではないが、個人的には小城市清水地区の鯉料理も気に入った。くさみが一切ない清らかなでみずみずしい味は感動モノだ。

東京から佐賀は、飛行機なら約2時間。成田からは今回筆者も利用したLCC、スプリングジャパン(春秋航空日本)も飛んでいる。これからの季節は、干潟でとろんこになってムツゴロウ気分で遊ぶのも楽しそうだ。有明海で遊んで、有明海のグルメを満喫する。そんな旅はいかがだろうか。
(古屋江美子)