7月10日に行われた参院選で、初当選した今井絵理子。
彼女が90年代をまさにものすごいスピードで駆け抜けたボーカル&ダンスグループ「SPEED」の一員だったことは、もちろん説明の必要はない。
選挙戦の報道を見ながら、その鮮烈な登場を思い出した人も多かっただろう。

SPEEDは、沖縄出身の4人組ボーカル&ダンスグループ。最年長の新垣仁絵はデビュー当時、中学3年生。最年少の島袋寛子はまだ小学6年生の12歳だった。
その年齢らしい、子どもっぽいダンスや歌い方をするわけではない。当時の流行のダンスミュージックを、大人ばり(あるいはそれ以上)のパフォーマンスで踊り、歌う。今井のパンチある歌声、そして、当時の流行のひとつでもあった島袋のハイトーンボイスを最大限に活かした楽曲もまた、大きな話題を集めた。

"マゴギャル世代"のアイコン的存在だったSPEED


デビューシングル「Body & Soul」が発売されたのは、1996年8月。彼女たちがデビューしていきなりブレイクしたのは、出身の沖縄アクターズスクールの先輩である安室奈美恵の大活躍も前提にある。時はコギャル時代まっただなか。ミニスカ、厚底、茶髪に細眉、そして健康的な褐色の肌という、アムラー現象を巻き起こしたコギャルのカリスマが安室だとすれば、SPEEDはそれに続く、マゴギャル世代のアイコン的存在としてハマッた。

ちょっと大人びた少女たちが、ちょっと大人びた歌詞の歌を歌う。そこで歌われる世界観は、シブヤを中心に、どこか生き急ぐようなコギャル/マゴギャルたちの刹那感がギュッとしていた気がする。
そんなわけで、同世代女子にも、圧倒的な支持を受けた。
カラフルなNBAシャツやダボっとしたパンツ。若さ爆発、アップテンポではじけまくるデビュー曲からわずか3カ月後にリリースされたセカンドシングル「STEADY」は、一転してモノトーンのイメージで、楽曲も低音を強調したミドルテンポに。安室奈美恵やMAXとはまた違う世界観。サビで両手を高くあげるダンスは、多くの女の子がまね、ミリオンセラーを記録した。

ヒットシングルを連発したSPEED


今井と島袋が歌担当、新垣と上原多香子はダンス担当という、“役割分担”的なものがきっちり決められていたのも、ティーンのガールズグループとしては斬新だった。「そうだよね」(「STEADY」)、「もう泣かない」(「Wake Me Up!」)と、短いセリフを挟み込むタイミングも、絶妙のバランス。
短いスパンでヒットシングルを連発、97年10月には、最大のヒット曲で冬の定番曲にもなった「White Love」を、そして、翌年2月に、6枚目のシングルで、卒業式の定番ソングにもなった、「my graduation」がリリースされた。
ここまでわずか1年6カ月。ベタだがまさにものすごい“スピード”で「graduation(卒業)」まで駆け抜けていった感がある。

「my graduation」で卒業感も……


そのスピードが、あまりにも速すぎたからか、あまりにも時代とジャストフィットしてしまったからか。この「my graduation」で、どこか本当に「卒業」感が漂ってしまったことは皮肉なところである。
もちろん、続くシングル「ALIVE」、「ALL MY TRUE LOVE」など、枚数的なヒットは続くが、「my graduation」を歌ってしまったことで、うっすらと燃え尽きた感が漂ったような気はする。
10代の少女たち(メンバー含む)の1年半は、やはり刹那的だ。
90年代のおわり、99年3月の上原を皮切りに、4人全員が順にソロデビューを果たす。そして翌年の3月、SPEED解散。
その後も、何度かの再結成や、今井と島袋のユニット「ERIHIRO」などの活動もあったが、デビューからちょうど20年をむかえる2016年夏。

「いま、私の心の中に、流れているある音楽があります。SPEEDの『Starting Over』です」
今井絵理子は当選の喜びを述べる会見で、SPEEDの名前、そして、同名のデビューアルバムに収められた曲の名前を口にした。「終わりは始まり」。これが今井の新しい始まりだ。
(太田サトル)

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