「むちゃな企画。野生のトキや徳川埋蔵金を探すようなもの」
あれから16年。幸か不幸か、このむちゃな企画によって、昭和を代表する大スターの跡目を継ぐことになった徳重聡が辿ったキャリア、現在地を思うと、たけしの発言はかなり的を得ているように思われます。
身長187センチ、体重77kg。足はスラっと長く、顔は小顔。8頭身はあろうかというモデル体型です。ルックスはというと、鹿児島出身の九州男児らしい、ソース顔系の甘いマスク。そして、何よりも際立つのは、目の力。「彼の長所は“目”だと思う」。件のオーディションで審査員席に座った渡哲也も、彼をそう評していました。
賞金総額は1億円! 空前の規模で行われたオーディション
「21世紀の石原裕次郎を探せ!」オーディションが開催されたのは、2000年3月から8月にかけて。賞金総額は1億円。応募総数5万2005名という稀代のスーパースターの名を冠するに相応しい、破格の規模で展開されました。
面談、体力測定、歌、演技の審査と、インターネットやはがき等を利用した一般ユーザーからの投票によって決まった栄えある1位が、誰あろうこの徳重でした。受賞が決まり記者からコメントを求められた際、「明日は明日の風が吹く、これを念頭にがんばってきたい」と謎のコメントを披露。相当、頭がこんがらがっていたことをうかがわせます。
石原プロ入社後、4~5年は修行の毎日だった徳重聡
そんなこんなで訳も分からないまま、石原プロに入社した徳重。そこからの4~5年は修行の連続だったそうです。発声から、話法、歌唱、ダンスのレッスン、体力トレーニング、挙句の果てには、オートバイ・大型自動車・船舶の免許取得まで課せられたといいます。
こうして研鑽を積んだ後、満を持して俳優デビュー&初主演を飾る予定だったのが連続テレビドラマ『西部警察2003』。かつて、裕次郎が木暮謙三役で一世を風靡した作品の新シリーズです。秘蔵っ子のお披露目に向けて、筋立てはつつがなく整っていたはずでした。しかし、思わぬ事件によって、その計画は雲散霧消してしまうのです。
撮影中に自動車事故 お蔵入りとなった『西部警察2003』
2003年8月12日。出演者の一人で石原プロの俳優・池田努が撮影中、運転する乗用車のハンドル操作を誤り、見物人5名を負傷させる事故を起こしてしまいます。この一件を重く見た同事務所は、『西部警察2003』の放送中止を決定。
一旦、お蔵入りになった後、1年後にようやくスペシャル版として一夜限り日の目を見るという、何とも、ケチのついた役者としての最初の一歩となってしまったのです。
徳重聡に重くのしかかった「裕次郎」の名前
その後、石原慎太郎原作の小説『弟』を実写化したSPドラマで裕次郎役を演じて脚光を浴びたものの、以降は時代劇の脇役や、連続ドラマのゲスト出演がメインとなっている徳重。件の大スターと比べてしまうと、スケール面で見劣りするのは言うまでもありません。
不遇の原因はおそらく、見た目と看板。まず、イケメンで高身長というハイスペック過ぎる風貌が役柄を限定させます。おまけに「裕次郎の後継者」なる金看板まで付いてくるとあっては、制作者サイドからすると使いづらいのです。
すでにデビューから16年で現在37歳。ちょうど、“初代”が『太陽にほえろ!』のボスに就任した年齢です。果たして、ここから二つ名に恥じない“嵐を呼ぶ男”となることはできるのでしょうか。
(こじへい)
赤い奇跡 DVD-BOX