能年玲奈が「のん」という芸名で芸能界復帰を宣言したのは記憶に新しいところ。2013年の『あまちゃん』ブームから早3年。
あの頃、朝ドラヒロインとして光り輝いていた少女に、まさかこんな紆余曲折が待っていようとは誰が想像したでしょうか。

さて、この『あまちゃん』は能年を筆頭に、有村架純、福士蒼汰、東出昌大など、今をときめく若手俳優の出世作になったことでも有名。また、小泉今日子や薬師丸ひろ子など、ベテラン俳優の再評価にもつながりました。
中でも異彩を放っていたのが、松田龍平です。彼が演じた役名・水口琢磨からとって「ミズタク萌え」と呼ばれるブームまで巻き起こりました。当時30歳。アラサーで“萌え”の対象になるなんて、彼か小池徹平くらいなものでしょう。

中学3年生のころ、大島渚から主演に抜擢された松田龍平


そんな松田龍平が俳優デビューしたのは、今から15年以上前のこと。中学3年生のころ、映画『御法度』の主役を探していた大島渚監督の目に止まったことがきっかけでした。
『御法度』‐カンヌ国際映画祭に出品された際は、Taboo(タブー)と訳された本作のテーマは、ずばり男色。時は幕末。新撰組に入隊してきた美し過ぎる少年剣士を巡って、隊内の規律が乱れていく様を描いた問題作です。

松田が演じたのは、主役にあたるその美しく妖艶な新入隊士。
なるほど。確かに当時の彼は、キリッとした眉に、色白のスキンカラー、あどけない表情をしながらもどこか憂いを帯びた眼をしていて、美少年剣士のイメージそのものです。作中で見せた演技も、共演したビートたけしや浅野忠信などの実力派俳優に引けを取らない、見事なものでした。
結果、松田は、日本アカデミー賞、キネマ旬報、毎日映画コンクール、ブルーリボン賞をはじめ、その年の新人賞を総嘗め。「松田優作の長男」という前評判に恥じない実績を、自分の力で創り上げたのです。

主人公を木村拓哉にする予定だった?


こうして、松田龍平が華々しいデビューを飾った『御法度』ですが、本作には一つ、裏話があります。
先述した大島渚の主役探しにおいて、最初から松田龍平に狙いを定めていたのかと言うと、実はそうではありません。彼には構想段階から「こいつでいこう!」と決めていた別のタレントがいました。その人物こそ、誰あろう木村拓哉だったのです。

大島監督は、新撰組に亀裂を入れるような妖しい男はキムタクしかいない、と常々語っていたそうです。映画公開当時、このSMAPメンバーの年齢は27歳。93年にドラマ『あすなろ白書』で脚光を浴びたときは21歳、96年『ロングバケーション』でブレイクしたときは24歳、97年『ラブジェネレーション』で人気を不動のモノにしたときは25歳……。
確かに、20代前半から中頃にかけてのキムタクは、大島が言うように何ともいえない妖しさ、もといオトコの色気を全身から発している美男子でした。


ジャニーズ事務所へオファーするも断られる


そんな稀代のスターを映画の顔に据えたいと考え、大島監督の意図を組み、制作者サイドはジャニーズ事務所に木村の出演を打診。ところが「ホモセクシャル」を題材としていることに難色を示されて断られてしまいます。結果、次善策として選ばれたのが、松田龍平でした。

松田は松田で新人らしからぬ素晴らしい演技を披露していたのですが、あの役を脂の乗りきったキムタクが演じたら、果たしてどんな作品になったのか……。ファンでなくても、ちょっと見てみたいというものでしょう。
(こじへい)

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