フジの月9ドラマ『好きな人がいること』が苦戦しています。平均視聴率は9.4%(8月8日・第5話終了時点)。
「桐谷美玲・三浦翔平・山崎賢人・野村周平など、旬な俳優が出演」「昨年放送した『恋仲』のスタッフが再集結」というのがウリだったものの、この低調っぷり。
不調の原因を一つに特定することはできません。ただ、強いてあげるならば、若者がポケモンを捕まえに夜な夜な街へ繰り出す中で、若者向けのキャスティングをしたこと、『恋仲』がそもそもヒットしていない(平均視聴率10.8%)のに何故かスタッフを再集結させたことなどでしょうか。

理由は何であれ、昔のフジを知る世代としては何とも寂しい限り。今から10数年前まで同局には、創り手側の情熱でドラマをヒット作にするパワーがありました。2003年に放送された『白い巨塔』も、そういった意欲作の一つです。

異例の半年間に及ぶ連続ドラマだった『白い巨塔』


「そこに重厚な人間ドラマがある」

こんな理由から、作家・山崎豊子は『白い巨塔』を書いたといいます。重厚な人間ドラマ……。そう、この作品は人の死や命を扱う病院が舞台の群像劇であるため、非常に重たい内容となっています。
それゆえ、2003年の連続ドラマ版も、やはり家族でご飯を食べながら、或いは、部屋の片付けでもしながらなどという片手間に流し見できるような類の話ではなく、「よし見るぞ…」としっかり腰をすえて観賞するべき映像作品でした。

放送したフジとしても、相当な気合の入れようだったと思います。何せ、通常、連続ドラマは1クール(3ヶ月)のところを、2クール(半年)掛けて放送したのですから。キャストも、唐沢寿明 ・江口洋介・矢田亜希子・黒木瞳・石坂浩二・西田敏行など、そうそうたる顔ぶれ。

これだけの役者を揃えての長期間放送で、しかも『白い巨搭』という名作を実写化するわけですから、制作者サイドとしては「絶対にヒットさせなくては」ではなく、「絶対、コケれない」という強い覚悟があったに違いありません。

原作者・山崎豊子、財前五郎=唐沢寿明に難色も


そんな並々ならぬ想いで創られた本作において、最も重大な役割の一つが「主役」です。もともと、主人公・財前五郎=田宮二郎という厳然たる成功例がある以上、下手な人選で作品の世界観を壊すことはできません。
その想いは原作者の山崎豊子も同じだったようで、当初、制作者サイドが財前役を唐沢寿明にすると打診したところ、「役のイメージに合わない」と難色を示したそうです。

そこで、スタッフは唐沢と山崎を含めた食事会を開きます。最初こそ「財前役をやるなんていい度胸してるわね。あなた大丈夫?」と懐疑的なままだったものの、会が進むにつれて態度は軟化。最終的には「あなた面白い男だね」と太鼓判を押したといいます。

最終回は視聴率32.1%! アウシュヴィッツ強制収容所でのロケも話題に


かくして原作者のお墨付きをもらった唐沢版『白い巨搭』は、初回から高視聴率を連発。特に物語の終盤は視聴率25%以上を何度も記録し、最終回に至っては32.1%をたたき出します。
数字の上でも歴史に残るドラマとなったわけですが、中でも話題になったのがアウシュヴィッツ強制収容所でのシーン。これは、晴れて教授となった財前がワルシャワでの国際外科学会に参加した際、空き時間に観光目的で訪れるという一場面であり、今後、彼の身に訪れる「死」を想起させるために、挿入されたエピソードだったといいます。

収容所の案内役として本物の元囚人を起用


何気ないこのワンシーンのために、世界で初めアウシュヴィッツ強制収容所をフィクション作品のロケに使用する許可を取りつけたこともそうですが、財前を案内するコーディネーター役を本物の強制収容所の元囚人(脱走に成功してその後俳優になった人物)を使うというこだわりは、見事の一言。この細部にわたる作り込みが、『白い巨搭』を名作にした要因の一つだったのでしょう。

これくらい時間もお金も情熱もかけて制作されたドラマを、またフジテレビで見てみたいものです。
(こじへい)

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