鋏を入れてもらう以前に、切符を買うこと自体減っていますよね。むしろSuicaやPASMOなどのICカードにチャージして、電車利用することが多いはず。もう駅員さんに切符を切ってもらうことはできないのでしょうか?
今、改札鋏を置いている鉄道会社は希少
自動改札機の導入は、日本経済の成長に伴い改札業務がひっ迫し、省力化することが目的だったといいます。国内で先に改札機設置・普及が進んだのは関西でした。関東で本格的に導入を開始したのは1990年頃だったといいます。
都内ではほとんどの駅に自動改札機が設置され、駅員さんに用事があると行くのは窓口です。改札鋏を入れてくれる駅員さんはいるのか、関東圏の鉄道会社各社に転々と問い合わせたところ、確認が取れたのが小湊(こみなと)鉄道さん。鋏で切符を切っていたこと自体を知らない、若いオペレーターさんもいました。
とにもかくにも改札鋏で切符を切ってほしい! 小湊鉄道に乗りに行くことにしました。
買う場所によって違う、いろいろな切符をゲット
JR千葉駅から20分ほどで五井駅に到着しました。この駅から小湊鉄道に乗り換えができます。
「Suicaパスモの利用はできません」との貼り紙。これは駅員さんとのやり取りを期待できそうです。懐かしい雰囲気を醸し出す、券売機もありました。
ただし自動販売機で買える切符は、軟券でした。軟券は自動改札機に入れる磁気の切符と違って裏は白色。鋏を入れる硬券より紙が薄く、ダッチングマシンという日付を入れるスタンプで入場の印を入れるタイプです。
そして切符販売所や列車内の車掌さんから買う切符は、シート式の切符でした。降りる駅に応じてパチパチと穴をあけてもらいます。
硬券を購入するため、五井駅から養老渓谷駅に向かいます。
利便性を追求した都心の鉄道とは違った風情
山を切り開いて建てたという養老渓谷駅に到着すると、駅舎や、切符売り場、年代物の切符入れはレトロ感満載。「替わりがないので、壊れたらどうしようって思っているんですよ」と女性の社員さんが見せてくれた、貴重なダッチングマシンも。
小湊鉄道では一部の有人駅で、硬券が買うことができます。有人駅の牛久駅、里見駅で、頼むと鋏を入れてもらうことができます。光風台駅、養老渓谷駅には時間限定で駅員さんが在中しています。また無人駅の月崎でも、駅舎の前に委託販売するショップがあり、硬券の購入のみなら可能です。
養老渓谷駅を含め、小湊鉄道には鉄道マニアや昔の物が好きな人が、硬券を買いに訪れることもしばしば。昔を懐かしんで鋏を入れてほしいと来る、年配の人もいるといいます。
養老渓谷駅の駅務員さんに、今回は硬券をお借りして、鋏を入れてもらいました。
鉄道勤務50年以上の元駅長さん「鋏を使う機会が減るのは寂しい」
18歳で昭和38年に入社し、以来53年間駅業務を務めた、飛田菊市さんが養老渓谷駅にいらっしゃいました。上総牛久駅の駅長を務めたご経験もあるそう。飛田さんに今自動改札機が主流になり、改札鋏を使うことが減ったことについて聞くと、「入社してから、切符に鋏は入れるものだと思っていました。改札鋏が消えていくのは、なんだか寂しい気もします」とのこと。
改札鋏を持つ駅員は格好よく見えたもの。小湊鉄道さんには、改札鋏の文化を絶やさないでほしいものです。自動改札機だけでは、少年少女の鉄道への憧れも薄れてしまいそうです。
なお、小湊鉄道では、ディーゼルエンジンで動くトロッコ鉄道「里山トロッコ」を運用中。切符を切ってもらう体験をしたい方は、「里山トロッコ」も乗車してみては? 穴の形を鋏こん(きょうこん)というそうで、駅ごとにパンチの形も違っています。駅員さんがいる駅を巡り、コンプリートするのもお勧めです。
(石水典子)