いくつもの落雷事故が報道された今年の夏。

先日、娘が学校から配布されたプリントには、雷の特徴として「周囲より高いものほど落ちやすい」「グラウンド等の周囲の開けた場所にいると直接人体に落雷することがある」といった一般的な記述の他に、初めて見る落雷対策が書かれていた。

それは、「両足のかかとを合わせてつま先立ちする」というもの。
これって、なぜ?

気象庁職員も初耳


気象庁「天気相談所」に聞いてみると、複数の職員の方に確認したうえで「初めて聞きました。気象庁では特に勧めてはいません」といった回答があった。
また、地域の防災課でも「聞いたことがないですね」。
娘の学校は理系に力を入れている高校なのだが、もしかして理系的観点による注意なのだろうか。
『大人のための高校物理復習帳』(講談社ブルーバックス)等、多数の著書を持つ、共立女子中学高等学校教諭の桑子研先生に聞いてみたところ、「足を閉じることは、電気工学的な観点でいえば電流が流れにくい、という程度の対応策だと思います」として、次のようなメカニズムを説明してくれた。
「まず足を開いていると、並列回路になります。
雷が近くに落ちた場合、電流がその場所から広がっていきますが、足を開いていると、片方の足から股間にいき、もう片方の足まで通ってしまいます。体脂肪が測れる体重計も同じように弱い電気を流しています。人間は電気抵抗が低く、電気が通りやすいですね。電気が体に通るとダメージをうけます。足を閉じるということには、電気の通る道を作らないという意味があるのだと思います」
ただし、実際に建物等に雷が落ちたときは、その規模が大きい場合、近くにいればどのような状態でもダメージは受けてしまうのではないかということだった。

また、「つま先立ち」については、「聞いたことがなかったですが、接地面積を小さくすれば、電気がそれだけ入ってきにくくなるためであると考えられます」とのこと。

ただし、これもそもそも自分に落ちてしまった場合には、意味がないと言う。
「まとめると、平地のなるべくくぼんだところに、足をそろえてしゃがむようにすると、雷は落ちにくくなったり、また落ちた電気が流れにくくなったりするのではないでしょうか」


落雷時に固まっているとお互い感電することも


もう一つ、プリントには対策として「友達とも離れる」という記述があった。これはなぜなのだろうか。
「先日、ノルウェーの国立公園に指定された高原で、300頭を超えるトナカイが落雷で死んだというニュースがありましたね。このニュースがわかりやすい例かもしれませんが、人間(生き物)が固まり、集まっているところに雷が落ちると、それらの人(生き物)の間に電流が流れるため、多くの人が怪我をしてしまうということがあるのだと思います。トナカイが300頭以上死んでいたというのは、まさに固まって集っていたことが原因です。
人間も同じく、友達と近くにいると、人間と人間どうしは電気が流れやすいので、お互いが感電することがあります。冬に、セーターを着た人など他の人にふれたときに、ぱちっとなることがありますね」

また、気象庁HPにも記述があるが、木の近くにいると、電流が木から人体に飛び移る可能性があるため、危険であること。
他に、建物の軒下での雨宿りも「避雷針のついていない建物に落ちると、建物を通して人体に電流が流れたり、倒壊したりといった危険がある」こともわかっているそう。

「かかとを合わせてつま先立ち」は、万が一、雷による電気が足から侵入しないように、それを最小限にとどめるための方法であり、一番良い方法はやはり「建物、あるいは自動車などの中に避難すること」 のよう。

まだまだ夕立や突然の雷の危険性がある季節。くれぐれもご注意を。

(田幸和歌子)