というもの、桜井さんの過去の発言を踏まえると、これらの曲をカバーすることはかなり意外なことであったのだ。
バンプはカバーしないと語っていた桜井和寿
元々、桜井さんはたびたびバンプ好きを公言しており、「メンバーに入れてほしいくらい好き」と『僕らの音楽』で語ったこともあるほど。
またその中でも、今回カバーした『ロストマン』は特に好きな曲として挙げていた。2000年代を振り返るというインタビュー(MUSICA 2010年1月号)では、「この10年間で思い出に残っている、象徴的な1曲」にこの曲を選び、「いっつも、ことあるごとに歌ってる」と語った。
しかしそこまでの強い思い入れがあるためか、今までバンプをカバーすることはなかった。実際、2010年のインタビューで「なんでバンプをカバーしないのか」という旨の質問を受けた際、次のように答えている。
「BUMP OF CHICKENに関しては、彼ら自身が演奏しないと意味を持たないし、説得力がないと思ってるからなんですよ。それを僕がBank Bandの演奏で歌っても『違うだろうな』ってことですよ」
現在の状況とよく似ていた?
しかし今回、Bank Bandとして唯一の新規カバー曲に選んだのは、『ロストマン』だった。この曲を披露する際、MCで次のように桜井さんは語った。
「BUMP OF CHICKENのみなさんがどんな気持ちで作ったかはわからないけど、僕は何か大事な、大切な物を失った男が道に迷って、でも時が経って新たに出発しようとする、その新たな旅出ちの始めの一歩の歌だと思ってます」
これはまさに、Mr.Childrenとして、近年置かれている状況と似ているのではないだろうか。というもの、Mr.Childrenは数年前から、デビュー時よりプロデューサーとして共に歩んできた小林武史氏から離れ、セルフプロデュースを行っている。
そのため、このBank Bandとしてのステージが、セルフプロデュース以降で初の共演となった桜井×小林。そんな状況であえて披露された『ロストマン』には、改めて長年支えてもらっていた小林氏に対する決意表明のようにも感じられた。現在のBank Bandで披露したからこそ、意味があった曲になったはずだ。
また、当日の「ap bank fes 2016」では、桜井さんが「何から何まで先頭に立って俺たちを導いてくれる。尊敬します」と小林氏を紹介し、小林氏も「時間があるはずもないのに、このBank Bandのリハーサルの音源も全部チェックしてるんです。凄い男です」と桜井さんを紹介していた。
セルフプロデュース以降、接点はかなり減ったと思われるが、今でも強固な信頼関係をお互いが持っていることがうかがえる一幕であった。
衝撃を与えた桜井和寿の乃木坂カバー
そして今夏、桜井さんのカバーはバンプにとどまらず、ライブイベント「Golden Circle Vol.20」で乃木坂46の『きっかけ』をカバーした。
ファンの間では大きな話題となり、8月2日に開催された大阪公演では、7月に実施された東京公演後の様子を振り返った桜井さんが「Twitter凄かったね。ほとんどの感想が乃木坂やった事だった」と苦笑したほど。
また、カバーした件は乃木坂メンバーにも伝わっていたようで、「まいやん」こと白石麻衣さんは『LAURIER PRESS』の取材(記事はこちら)でこのカバーに対して、以下のように答えている。
「そういう有名な方にも知って頂けてるというのは、私達もビックリなんです。でもすごく嬉しいですね。さらに頑張ろうと思います」
桜井和寿が語っていたアイドル観
乃木坂をカバーした桜井さんであるが、『MUSICA』(2015年1月号)にて、「最近は音楽番組でも、バンド・シンガーソングライターよりもアイドルと共演することが多くなっていると思う。その辺の風はどう体に吹いているか」という趣旨の質問に対して、以下のように発言していた。
「いや、もう全然吹かないです。本当に違うものだと思ってるし、どう捉えていいのかもよくわからないし。
この発言だけを見ると、アイドルの歌は音楽界の話ではない、と言っているようにもとれる。確かにこの発言の以前に、AKB48の『ヘビーローテーション』をカバーしたこともあったが、その意図は「カバーをやるんだったらみんなが知ってる曲じゃないとダメ」という考えからであり、音楽的に感銘を受けたりはしていないようだ。
「きっかけ」を絶賛する桜井、その理由とは?
しかし『きっかけ』に関しては大絶賛している桜井さん。当日のライブでは、『きっかけ』のカバーは桜井さんからの提案だったことが明かされ、「ものすごい良い曲なんですよ。桜井が書いた歌詞でしょ、と思えるくらい、凄い近い感じなんですよ」とMCで説明した。
また、雑誌『LuckyRaccoon vol.43』の取材で最近オススメの曲を聞かれた際も、『きっかけ』を挙げ、「小林武史プロデュースのミスチル的なアレンジを感じる」と語っている。
どうやら衝撃的を与えた乃木坂カバーした理由は、単純に桜井さんが「この曲は良い」と感じたかららしい。また、それと同時にこの曲を、いわゆる「ミスチルっぽい、ミスチル的な楽曲」だと捉えているようだ。
過去にはピーコの曲もカバーした桜井和寿
過去にはアイドルの楽曲に対して否定的ともとれる発言をしたものの、今回カバーするまでに至った桜井さん。そこには彼の「歌っている人が誰であろうと、良い音楽は良い」という音楽に対するピュアで誠実な姿勢があるのではないだろうか。
実際、2006年に行われた「LuckyRaccoon Night vol.1」ではなんと、おすぎとピーコのピーコが歌っていた『いつ帰ってくるの』をカバーしている。
そして後のインタビューでは、Mr.Childrenとして行った「シフクノオトツアー」の横浜国際総合競技場(現在は日産スタジアム)公演が始まる前に聴いていたことを明かしている(『LuckyRaccoon vol.21』)。
このようにカバーでファンを魅了した桜井さん。9月21日からは「Mr.Children Hall Tour 2016 虹」の後半戦がスタートし、10月3日からスタートしたNHK連続テレビ小説「べっぴんさん」では、Mr.Childrenの新曲『ヒカリノアトリエ』が流されている。今度はMr.Childrenとして、ファンを楽しましてくれそうだ。
(さのゆう)
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