脚本:渡辺千穂 演出:梛川善郎

とても元気が出るミスチルの主題歌の歌詞「優しすぎる嘘で涙を拭いたらきっと虹はもうそこにある」。
脚本も文学たり得ると思うのだけれど、14回の「べっぴんさん」では、五十八(生瀬勝久)の「誰に負けたんやろなわしは・・・。何に負けたんやろな」が印象的だった。
会社も家も腹心の部下も亡くし、預金も封鎖されてしまった五十八は、すっかり元気がなくなって近江に引きこもろうとする。そのときの生瀬勝久の顔からこれまでの自信に満ちたギラギラがなくなり、つるっとした皮膚感になっていて、ほんとうにエネルギーが空っぽになってしまったんだなあと思わせる。
一方、潔(高良健吾)は生きる力に満ち満ちている。顔にぎりっと力が入っていて、何かものすごいものを背負ったかのようなただならない気迫が漂う。これが戦争に行った人と行ってない人の違いかもしれず、五十八が弱々しいほどに、潔の険しい表情がいっそう際立つ。生瀬勝久は共演者を生かすのが本当に巧み。仲間由紀恵は生瀬と共演してきたことでどれだけポテンシャルを伸ばし輝いたことか。
潔は、亡くなった父・正蔵(名倉潤)が生前、吸収合併された坂東営業部をいつか取り戻すと言っていたことを引き継ぎ、「もう一度大阪で一旗上げるんだ」と意欲に燃えて、サイドカーつきバイクに乗って活動を始める。
サイドカーつきバイクというとキカイダーを思いだし胸ときめかせてしまう昭和者も多いのではないか。闇市の元締め・根本(団時朗)の怪しさには「帰ってきたウルトラマン」ではなく「少年探偵団」の怪人二十面相を思い出したひともきっといるはず。
それはともかく、朝ドラってなぜかいつも闇市のセットに力を入れている。美術スタッフさんの腕の見せどころなんだろうか。
ときに昭和21年。いまのところ1話につき1年経過しているハイペースだが、どのあたりで時間の進行が止まるか気になる。
(木俣冬)