ミュージシャンの内田裕也が「京都国際映画祭2016」において舞台挨拶に立ち、自身が出馬した1991年の東京都知事選について語った。

この選挙で内田は、54,654票を獲得し、候補者16人中5位となっている。
政見放送では、ジョン・レノンの『Power to the peope』、頭脳警察の『コミック雑誌なんかいらない』を歌ったほか、英語での自己紹介も話題となった。内田の出馬は、アントニオ猪木の出馬撤回を受けてのものである。選挙活動の様子は宇崎竜童が監督を務めた映画『魚からダイオキシン!!』に収録されている。

この年の東京都知事選には内田のほかにも数々の個性派候補が出馬していた。16名の候補者の中でも、とりわけアクの強い候補者たちを見てゆきたい。以下候補者名、所属、得票数、順位の順に記す。

中松義郎/無所属/27,145票/7位


いまや選挙ではおなじみとなっているドクター中松の最初の出馬が1991年の都知事選であった。政見放送では、ぴょんぴょんと跳ねるジャンピングシューズを用いたパフォーマンスを披露した。これ以降、変わり者の発明家としてテレビ露出の機会が増え、知名度が向上。ドクター中松は都知事選にはその後も出馬を続け、1999年と2003年には、10万票を超える得票を獲得している。

対馬テツ子/緑の党/5,691票/9位


緑の党といえば、ヨーロッパを中心に活躍する環境保護や脱原発を訴える中道左派の政党というイメージが現在ではある。だが、この団体は海外の緑の党とはまったく関係がない。
青森県にルーツを持ち、都内各地で街頭募金活動を行っている。さらに自前の施設では、定期的に社交ダンスを用いた音楽コンサートを開催することでも知られる。
コンサートの音楽は生バンドによる演奏が行われる豪華なものだ。

東郷健/雑民党/2,254票/10位


新宿ゴールデン街や二丁目で長らく飲食店を営むかたわら、マイノリティ解放や表現の自由の擁護を掲げる雑民党を率いていた東郷健は、たびたび選挙に出馬していた。政権放送は候補者の言葉がそのまま流れるため、きわどい言葉をあえて発し、世間を挑発した。さらに蔑称であった“オカマの東郷健”を自ら名乗り、オネエ言葉やくねくねとした動きなどに代表されるベタなオカマ像を広めるきっかけともなった。そのため東郷の功績に関しては賛否両論がある。

三井理峯/無所属/829票/14位


いまだに動画サイトで繰り返し視聴されているのが、三井理峯の政見放送である。出馬時は80歳の老人であり、歯がないためか、モゴモゴと喋りとにかく滑舌が悪い。その様子は小林よしのりの『ゴーマニズム宣言』でも“入れ歯もせずに何を言っているのかわからない‥というだけで「これは福祉だな」と国民にストレートに訴えてくる”と評されている。
さらに、政見放送をそのまま収録した7インチレコードも発売されカルト的な人気も博した。政見放送内で朗読される自費出版の著作『我は平民』は、国立国会図書館にも所蔵がない幻のアイテムだ。三井自身は、2002年に91歳で亡くなっている。

この年の選挙は鈴木俊一が、およそ230万票を獲得し、四選を果たしている。東京都知事選は、直接投票の地方選挙としては世界有数の規模である。
それゆえに、数々の個性派候補が登場するのだろう。
(下地直輝)

※イメージ画像はamazonより奇跡の地球 Single
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