今季は家をテーマにしたドラマが重なった。テレビ東京系の「吉祥寺だけが住みたい街ですか?」は毎回違う人物が賃貸物件を探す物語。
いっぽう、ある女子がマンションを購入するためモデルルームを見に行き、そこに勤める人たちと関係を築いていくのが「プリンセスメゾン」(NHK-BSプレミアム、毎週火曜23:15〜)だ。原作はweb「やわらかスピリッツ」に連載中の池辺葵(「繕い断つ人」)による同名マンガ。
最高の高橋一生の予感に震える「プリンセスメゾン」
原作コミックス

主人公を視聴者と同じ立場に


主人公の沼ちゃんこと沼越幸は、高校卒業後、居酒屋で8年間正社員として働いている。ぼろぼろのアパートに住みながら、マンションを買うという夢のために毎月しっかり貯金。ある日、チラシを見て知ったモデルルームに出かけ、持井不動産の面々と出会うーー。

原作を読んだうえでこのドラマを見ると、とにかく構成のうまさにうならされる。たとえば、原作では沼ちゃんと交わらない存在の「女性のマンション購入をサポートする会」。ドラマでは沼ちゃんをこの会の勉強会に参加させた。これによって、あまり感情を表に出さない沼ちゃんが、マンション購入を本気で考えていること、投資目的などではなく純粋に自分が住みたい家を探していることを視聴者にわからせた。
また、原作ではモデルルーム見学でモブの女性が発した「このトマト缶おいしそー」というセリフがドラマでは沼ちゃんのものとなり、沼ちゃんと持井不動産の人々をつなげるのにひと役買ったりもする。
そもそも、原作では第1話冒頭からモデルルーム見学の常連である沼ちゃんが、ドラマでは開始13分経ってから、初めてのモデルルーム見学に出かける。スタート地点からして違うのだ。沼ちゃんを常連にしなかったのは、彼女を視聴者と同じ状態におき、より親近感をもたせるためかもしれない。


他にも挙げていけばきりがないが、じつに自然に、効果的に原作が再構築されている。原作では沼ちゃん以外の女性たちの物語もかなり多く描かれ、沼ちゃんがまったく登場しない回もあるため、連続ドラマにしたときどうなるのだろう? と思っていたが、この先もかなり期待できそうだ。

自らをモデルにした役を演じる高橋一生


沼ちゃんを演じるのは森川葵。ひとりで毎日つつましく暮らし、まじめに働く女子がよく似合う。また、持井不動産のベテラン派遣スタッフ要を演じる陽月華が、なんともいい。沼ちゃん、後述の伊達さんと、メインどころの二人がどちらも表情がなかなか読み取れないキャラクターなのに対し、セリフ、間、動きすべてが豊かな要を好演している。

しかし。私はこのドラマ最大の見どころとして、持井不動産の有能な社員・伊達を演じる高橋一生の存在を推したい。
じつは若干10歳でこの世界にデビューしている高橋。以来、映画やドラマにコンスタントに出演していたが、長く「知る人ぞ知る」役者だった彼が世間的に大きくブレイクしたといえるのはやはり昨年の「民王」だろう。総理とその息子が入れ替わるという物語で、切れ者の総理秘書・貝原を演じた高橋。回を追うごとに人気を獲得し、とうとう貝原主演のスピンオフが放送されるまでになった。

原作者である池辺は、自身のブログで次のように書いていた。

「民王というドラマの貝原さんを見て、
 伊達さんのキャラクターのヒントをいただいていたので
 貝原さんを演じられていた高橋一生さんが
 伊達さんを演じてくださるのは
 私には奇跡がおこったくらい嬉しいことです」
池辺葵 漫画便覧「ドラマ」)

原作では眼鏡の奥の目さえ描かれることのない伊達。しかしながらコマ割りで、視線(というか顔の向き)で、口元で、伊達の気持ちが伝わってくる。そんな伊達には、そもそも貝原の要素が入っていたのだ。それを、貝原を演じていた高橋一生が演じる。こんなすてきなブーメラン、なかなかあることではない。とはいえ、役のひとつひとつをとことん掘り下げて演じる高橋のこと、貝原と同じスタイルをなぞるのではなく、伊達は伊達としてみごとに演じてくれるに違いない。
という役者・高橋一生への信頼とともに、私の心の中のミーハーが叫ぶ。「眼鏡! スーツ! 切れ者! 低い声! 無表情!……最高!」と。実際、第1話でも沼ちゃんが短期間で物件に関する膨大な知識を勉強してきたことに驚き、ほのかにうれしさも感じている伊達(しかもそれをほんのわずかの間と声色で表現する高橋よ!)が沼ちゃんと同じくらい、いやそれ以上に最高にかわいかった。ブラボー!

さて、沼ちゃんのマンション探しはどうなるのか。伊達はどんな表情を見せてくれるのか。
「プリンセスメゾン」第2話は今夜!
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