アメリカに長期旅行などで滞在している人や、アメリカ在住の日本人がよく感じることの一つに、「アメリカのサツマイモがあまりにおいしくない」があるという。慣れ親しんだ日本のサツマイモが恋しくなるのは、時間の問題。

そこで、アメリカのサツマイモとはどのようなものなのか、なぜ日本人の舌に合わないのかなどを探るべく、日本いも類研究会の小巻克巳会長に詳しく聞いてみた。

アメリカのサツマイモの感想


アメリカのサツマイモは、日本でおなじみのあのサツマイモとは少々見た目も味も違うという噂を耳にした。その感想は思いのほかひどいもので、例えば次のようなものがある。

「ベチャっとしていて水っぽいカボチャみたい。日本のサツマイモとあまりに違いすぎてショックレベル」
「薬臭いというか土臭いというか…まったく甘くない」
「皮をむいたらオレンジでビックリした」
「繊維質の強いニンジン」


日本人からは、もはや「サツマイモ」としてすら、見てもらえていないようだ。

アメリカのサツマイモはなぜおいしくないのか?


まずは小巻会長に、アメリカのサツマイモがおいしくない理由と、日本でおなじみのサツマイモとの違いを教えてもらった。

「アメリカで栽培されているサツマイモは、ほとんどの品種が、いもの中にカロテンという橙色の色素を含んでいます。このため、食べると少し(品種あるいは人によっては強く)ニンジン臭を感じます。

また、日本のサツマイモより、いもの中に含まれる水分が多いので、どのような調理をしても、ベチャベチャとした食感になりますし、日本のサツマイモほど甘くありません。
こうした特徴により、日本のサツマイモとはまったく異なった食品と認識してしまうところから、サツマイモとしてはおいしくないという結果になるものと考えられます」

アメリカのサツマイモは、基本的に日本のサツマイモとは異なると考えたほうが良さそうだ…。

日本人受けが悪いのはなぜなのか?


小巻会長に、なぜアメリカのサツマイモが、とくに日本人にとって受けが悪いのかの理由を詳しく聞いてみた。

「アメリカのサツマイモは10月から12月にかけて、つまりハロウィンからクリスマスまでの行事によく食べられます。カボチャはハロウィンで有名ですが、その代替食品として考えられているようです。
そもそもアメリカでは日本のようにサツマイモをふかして食べることはまずありません。少なくともローストします。
これは、アメリカではサツマイモは貧乏人の食べ物と認識されているせいかもしれません」

では、アメリカでは具体的にどのようにサツマイモが食べられているのだろうか?

「一般的には、クリームや砂糖を加えてパテ状にして食べます。また、シロップ漬けの缶詰に加工されることも多く、スーパーでもよく見かけます。特に『サンクスギビング(感謝祭)』では七面鳥のサイドディッシュとして"サツマイモパテ"が食卓に出ます。

このように、アメリカでは、サツマイモの食べ方が日本とは大きく異なり、ふかし芋や焼き芋のようにそのまま食べるのではなく、【料理の材料】として捉えられています。そのため、アメリカでは、サツマイモそのものに橙色で、調理しやすいことを求めてきたのです。
結果、日本人がイメージするサツマイモと違うサツマイモが普及することになったと考えられます」

使われる用途が異なると、その見た目も味わいも変わってくるようだ。


アメリカのサツマイモにも良いところはないのか?


しかし、日本人にはさんざんの言われようだったアメリカのサツマイモ。何か少しでも良いところはないのだろうか?ダメ押しで小巻会長に聞いてみた。

「アメリカのサツマイモが多く含んでいるカロテンは、人の体内でビタミンAに変化し、ビタミンA不足によって起こる夜盲症の予防に効果があります。サツマイモは痩せた土地でもある程度の収穫が得られ、カロテンだけでなく、デンプンという炭水化物も生産し、エネルギー源としても利用できます。
このため、貧困にあえぐサハラ以南のアフリカ諸国の子供たちの栄養改善に利用しようとする取り組みが進められています。『OFSP(Orange Fleshed Sweetpotato、オレンジサツマイモ)計画』がそれで、欧米の多くの大学やCIP(International Potato Center、国際馬鈴薯センター)が参画しています」
アメリカのサツマイモにも良いところがあった! 他にもまだある?

「また、アメリカのサツマイモの形は短い紡錘形で、"形が崩れにくい"という特徴があります。
また、アメリカでは大面積でサツマイモを栽培するため、"病害虫抵抗性"をもつことが重要で、多くの品種が様々な病害虫に抵抗性を示します。例えば、今は日本でも重要な病害ですが、少し前まで余り重要視されていなかったサツマイモ立枯病に抵抗性のある品種が広く栽培されています」

いいところがあるではないか! アメリカのサツマイモは世界を救う! それは大げさだが、決しておいしくないだけではなかった……。一安心したところで、やっぱり日本のサツマイモはおいしい。ぜひ、この冬も、おいしくほくほくしたサツマイモをいただこう。
そして、アメリカに滞在したときには、そのサツマイモのあまりの違いに驚かず、温かい目で見守りたいものである。
(石原亜香利)


取材協力
日本いも類研究会会長 小巻 克巳さん
1979年に農林水産省に採用され、つくばと九州でサツマイモの育種研究に従事する。
この間、フロリダ大学で1年間サツマイモの組織培養に関して在外研究を行う。「パープル・スイート・ロード」、「クイックスイート」など多くの新品種を育成。