ジャスティン・ビーバーをきっかけに海外で先に火がつき、日本でも“逆輸入”のかたちで後にブームとなったピコ太郎の「PPAP」。

不思議なのは、日本と海外での楽しみ方が異なることだ。


日本人の場合はまずコスチュームを購入したり、黄色い布を羽織ったりするなど、扮装から入り、マネをするのが一般的だが、海外ではインドバージョンやオリジナルソングなど、様々なアレンジだらけ。
トランプ氏の5歳の孫すらも、原型からかけ離れたワイルドな絶叫系アレンジをしている。

なぜ日本では「忠実なコピーをする」のに対し、海外では大きく原型から離れていくのか。
その理由について、追手門学院大学笑学研究所客員研究員で日本笑い学会理事の瀬沼文彰さんは、日本とアメリカのモノマネについて次のように分析する。
「日本のモノマネは基本的にリスペクトが前提な場合が多いです。一方で、アメリカの場合、リスペクト前提のモノマネもありますが、風刺の意味合いが含まれていることも多く、モノマネする対象を攻撃する、多くの人に改めて価値を問うなどのメッセージが大切な役割になります。例えば、トランプさんの真似をして、トランプさんの政治的主張のおかしさを多くの人に問うなどがその典型例です」

とはいえ、今回はもちろんピコ太郎を攻撃・批判する目的はなく、単純に面白い、あるいは面白いと発信することがセンスがありそうということだろうと言う。

国内外で「PPAP」の楽しみ方が異なる3つの理由


基本的には、「恋するフォーチュンクッキー」「アイスバケツチャレンジ」ブームなどと同様に、マネしやすく、SNSのネタにピタッとハマったことがブームの最大の理由だろうと言うが、では、なぜ日本と海外で楽しみ方が異なるのか。瀬沼さんは3つの理由を挙げる。

(1)ピコ太郎のキャラは日本人には「濃すぎる」からアレンジしにくい
「日本人にとっては、ピコ太郎さんの見た目と動きを含めたキャラが濃すぎて、あの濃すぎるキャラを上回るようなアレンジが思いつかなかったということです。一方、外国人にしてみれば、変わった単なるアジア人で、そこにキャラの濃い薄いは関係なく、自在にアレンジしたのではないでしょうか。キャラに過剰にこだわるのは、日本人的な特徴です」

(2)若い世代はクリエイティブな笑いが苦手
「若い世代の日常生活の笑いの研究をしているなかで、彼・彼女たちの笑いの特徴には、一部を除き、クリエイティブな笑いがかなり苦手という傾向が見られます。
若い世代はよく笑いますし、仲間を笑わせる意識もあるのですが、独自な笑いを作れる人は一部にすぎません。スマホのアプリのように、一部のクリエイティブな人が作った箱のなかで、彼・彼女たちは戯れ笑い合います」
例えば、LINEのスタンプでは、クリエイティブな誰かが作ったスタンプを並べ替えたり独特な組み合わせをしたりして笑い合う。若者に人気のアプリ「SNOW」でも、枠組みを与えてもらえれば、それで遊び、笑い合う。誕生日の顔面ケーキも、元ネタは古くからあるバラエティやコントのネタである。
「クリエイティブな笑いは、一部の人を除いて日本人にはかなり弱い領域だと言えます。そのため、日本人は、PPAPをさらにアレンジ、クリエイティブするよりも、上手に真似ようとするのだと思われます。そもそも自信もないので、クリエイティブしようとも思っていない可能性もありそうです」

(3)日本でのお笑い芸人のポジションとの関連
「日本ではいまや、お笑い芸人は司会をこなし、芸能界のなかでは、売れれば地位がとても高いです。また、コミュニケーションが重視される社会のなかでは、芸人は尊敬の対象になります。こうしたなかでは、芸人でもあるピコ太郎さんのアレンジをしても、芸人を超える面白さは作れないし、その自信もないし、アレンジするとむしろさむくなって、発信すれば、自分の評価すら落ちかねない。だから、アレンジをする表現がしにくいのかもしれません」

その一方で、海外の人は、日本のお笑い芸人など知らないし、地位の高さなども知ったことではない。だから、次々とアレンジしているのではないかと言う。
「なお、日本のお笑いレベルは高いという議論がかなり前からありますが、実際問題、いくつかの例外はあるものの、言語的に海外への輸出ができていませんでした。
そんななか、今回のピコ太郎さんの歌ネタに続き、次々に世界にアピールしてくれると、クールジャパンの1つの貴重な資源にもなりえるはず」

確かに、日本では一瞬ブームになって消え去っていったリズムネタなども枚挙に暇がない。
いまだに幼児や小学生には確実にウケ続けている「そんなの関係ねえ!(小島よしお)」などをはじめ、世界で戦えそうなネタはまだまだたくさん眠っているのかも。
(田幸和歌子)
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