間もなく誕生から40年を迎えるロボットアニメの金字塔、ガンダムシリーズ(本当はロボットじゃなくてモビルスーツ)。新作が作られるたびに常にアニメ界の話題の中心となる昨今ですが、シリーズ開始から10年が過ぎた1990年代は曲がり角というべき季節を経験しました。


テレビシリーズ空白の6年


1987年1月に「機動戦士ガンダムZZ」が終了して以降、TVシリーズとしてのガンダムは6年に及ぶ空白期間が生まれました。
この間、1stガンダムに連なる宇宙世紀のその後を描いた「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」、「機動戦士ガンダムF91」の2本の劇場版と、OVAとして一年戦争の外伝「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」、一年戦争終結から「機動戦士Zガンダム」の年代の間を埋める「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」、さらに「0083」を再編集した劇場版「機動戦士ガンダム0083 ジオンの残光」を制作。

ガンダムの歴史は続くことになりましたが、どちらかというと一般層向けよりもディープなガンダム好きを意識した作品が目立ったといえます。この頃はレンタルビデオの最初の普及期にあたり、ビデオだけでリリースされるアニメ(OVA)が盛んに作られ、ガンダムシリーズその一翼を担ったわけですが、新規のガンダムファンが生まれにくくなってしまったのです。
一般的に「オタク」という言葉が知られるようになったのもちょうどこの時期にあたり、「ガンダム=オタクのもの」という認識がこれらの作品群によってより印象づけられた感もあります。

富野監督自ら失敗を公言した「Vガンダム」


この状況を変えたいと思い立ったのがガンダムの生みの親・富野由悠季監督。ディープなファンの占有物ではない、小学生にも興味を持ってもらうガンダムを目指すとの考えから1993年、久々のTVシリーズ「機動戦士Vガンダム」が制作されます。
主人公のウッソは、アムロやカミーユら過去のシリーズの主人公より年齢が低く、キャラクターデザインも全般的に幼くに設定し、新規のファンの獲得を狙いました。

しかし、ストーリーは過去のシリーズに劣らぬ極めてハードな展開で、戦争に民族性や宗教が絡み合うという旧来のファンすら戸惑いかねない話に。しかも、肝心の主役機であるVガンダムが初登場するのも第4話という、奇をてらいすぎた方法が裏目に出てしまいました。
富野監督は放送から数年後に発売されたDVDボックスの解説冊子の中で、「(Vガンダムは)失敗作」と公言。「このDVDは見られたものではないので買ってはいけません」とまで切り捨てています(ファンの間では「これぞ富野節!」とあえて容認する向きもあるようですが)。

格闘技ガンダムに怒りの声も


「Vガンダム」の不発でいよいよ立場が厳しくなったガンダム。そこにシリーズの大転換を持ちかけたのは、ガンプラの販売元であるバンダイでした。アニメ本体こそ不人気なものの、ガンプラの売れ行きは比較的安定しており、特にモビルスーツをコミカルにデフォルメしたSDガンダムは小学生の間にもファンが多いと分析。
これを逃す手はないと考えて提示されたのが、ガンダム同士が世界制覇をかけて戦争の代わりに格闘技で競い合うという、過去のシリーズとはおよそかけ離れた内容でした。

それが「機動武闘伝Gガンダム」。単なる名前貸しのような掟破りのガンダムの登場に、旧来のガンダムファンからは怒りの声すら上がりました。関連のおもちゃなども用意されたものの全く売れず「Vガンダム」を上回る厳しいスタートを強いられたのですが、1クールを過ぎた頃から視聴率は徐々に上昇を始めたのです。

その中心はかねてから狙っていた小学生でした。
SDガンダムからファンになっていた彼らは、過去のガンダムシリーズのお約束ともいえたハードな展開には興味がない一方、見てくれが魅力的なモビルスーツには素直に受け入れる素養を持っていたのです。さらに、「キン肉マン」などにも通じるギャグ要素などを巧みに取り入れつつ、熱血系のキャラクター(主人公のドモン・カッシュやその師匠マスター・アジアら)が次々に登場する展開に視聴率は右肩上がりに。「こういうガンダムもありなのか」と旧来のファンを巻き込んで一定の成功を収めたのです。

「Gガンダム」がもたらした無限の可能性


「Gガンダム」の成功は、「宇宙世紀」というガンダムと切っても切り離せなかったはずの世界観からシリーズを解き放ち、あらゆる可能性を示す絶好の機会になったのです。さらに旧作にとらわれない全く新しいファン層の開拓にも成功。これ以降、「新機動戦記ガンダムW」や「機動新世紀ガンダムX」、さらに、「Vガンダム」以降離れていた富野監督による1999年に「∀ガンダム」と“非・宇宙世紀”作品がつづくことになりました。その一方で、一年戦争における陸戦部隊の奮闘を描いたOVA作「機動戦士ガンダム第08MS小隊」がリリース。
玄人好み路線の健在ぶりを示すことにもなりました。

2000年以降、非・宇宙世紀でありながら初代ガンダムを意識した「機動戦士ガンダムSEED」が引き金となり、ガンダムシリーズは一気に一般層をも巻き込んだ国民的コンテンツへと成長します。しかしその下地には、混沌とした90年代の試行錯誤があったのです。
(足立謙二)

※イメージ画像はamazonよりROBOT魂 [SIDE MS] Vガンダム
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