阪神大震災、オウムによる地下鉄サリン事件、フランスや中国の核実験など、世界を震撼させる出来事が次々と起こった95年、漫画界でも同じく大激震が走る出来事があった。少年ジャンプ25号で『ドラゴンボール』がついに連載終了となったのである。

10年に渡ってジャンプを支えた国民的人気漫画であり、発行部数のギネス記録達成(記事はこちら)の最大の立役者の抜けた穴は大きかった。前年にはアニメもヒットした『幽遊白書』が突然の連載終了となっていたこともあり、ジャンプ人気は一気に下降線を描く形になってしまう。
95年は、その後10作品が新連載を開始するが、そのほとんどが早期打ち切り。『真島クンすっとばす!!』がスマッシュヒットとなったぐらいだった。

そこに現れた救世主が、最終の52号から始まった11作品目の新連載だ。作者は新人のうすた京介。
作品名は『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』。
ジャンプの看板を背負って立つ作品になるとは、この時点では編集部も読者も思っていなかったのではないだろうか?

いきなり外伝!? そもそも「セクシーコマンドー」って?


『マサルさん』は、「セクシーコマンドー」という謎の格闘技の使い手の主人公・花中島マサルを中心に繰り広げるギャグマンガ。
もちろん、「セクシーコマンドー」は架空の格闘技(一応、相手の隙を無理矢理生み出す格闘技らしい)であり、「外伝」と付いているが「本伝」は存在しない。
緻密とディフォルメを行き来する確かな画力で、想像の斜め上を行く言動や悪ノリがテンポ良く畳み掛けられて行く。最終回を唐突に1話限りの第2部「地獄校長編」とするなど、万事が支離滅裂な展開であり、その独自の世界観が熱狂的ファンを数多く生み出している。

『すごいよ!!マサルさん』の凄さとは?


翌96年14号で連載15回記念の巻頭カラーとなった『マサルさん』。これを皮切りに、この年だけで4回の巻頭カラーとなり、表紙も単独で4回飾っている。これは、ギャグマンガは中堅と相場が決まっていたジャンプでは異例の事態だ。

『ドラゴンボール』に並ぶ看板マンガ『SLAMDUNK』も96年27号で終了と、さらなるピンチがジャンプを襲う中、『マサルさん』の掲載順位は6位以内をキープと絶好調。連載自体は2年弱で終了となるが、コミックスは全7巻で累計700万部を超える大ヒットを記録し、98年にはTBSの深夜番組『ワンダフル』内でアニメ化。さらに人気を拡大している。

作者本人は否定しているが、シュールなギャグが持ち味であり、後のギャグマンガの大半はその影響下にあると言っても過言ではないだろう。
この頃のジャンプは『幕張』『花さか天使テンテンくん』『世紀末リーダー伝たけし!』など、ギャグ路線が顕著となっているが、これも『マサルさん』人気の影響を受けた結果だろう。

『マサルさん』人気の影にバカルディ(さまぁ~ず)あり!?


2010年発行の『マンガ脳の鍛え方』(集英社)で、作者のうすた先生は『マサルさん』も後の大ヒット作『ピューと吹く!ジャガー』も、「“せつない”感じ、“悲しい”感じを笑うマンガ」だとし、同じ笑いのタイプの芸人としてさまぁ~ずを挙げ、影響を受けていることを語っている。
『マサルさん』のコミックス1巻でもバカルディ(当時)を好きな芸人に挙げるなど、その笑いの志向は一貫しているようだ。
さまぁ~ずの笑いは、ツッコミが否定的ではなく「説明」なのが大きな特徴。なので、『マサルさん』でも、暴走するマサルさんを状況説明しながらツッコむ「ふーみん」の存在が不可欠。テンポのいい説明ツッコミで、笑いを生み出しているのである。

『マサルさん』の連載末期、ジャンプでは次世代の看板作品『ONEPIECE』が連載開始となる。つまり、『ドラゴンボール』の抜けた穴を支えた『マサルさん』は、『ONEPIECE』に続くジャンプ看板マンガの黄金リレーをなにげに中継していたことになるのだ。
『マサルさん』はやっぱりすごいのである。
(バーグマン田形)

※イメージ画像はamazonよりセクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)