2016年12月4日に放映された『M-1グランプリ2016』。コンビ結成15年目までの若手漫才師の頂点を決めるこの闘いは、予選を勝ち上がった8組と、敗者復活戦を勝ち上がった1組を合わせた上位9組がスタジオで火花を散らす。


過去には敗者復活戦から参戦したサンドウィッチマン、トレンディエンジェルが最終決勝を制してブレイクしたように、番狂わせもM-1の醍醐味のひとつだ。
そんな敗者復活戦に並々ならぬ思いを寄せていたコンビといえば、今年で結成15周年を迎え最後のM-1出場となる「とろサーモン」だろう。

今回は、俳優としても注目を集めている“サーモン君”こと、とろサーモンのツッコミ村田秀亮(37)を振り返ってみよう。

高校時代の同級生・久保田とコンビ結成


2002年、高校時代の友人である久保田からの熱烈なラブコールによって、村田と久保田のコンビとろサーモンが産声をあげた。かねてからコンビ解散を繰り返していた久保田が、村田宛に「お前のツッコミと俺の計算された細かい天才的なボケ」で「俺と夢を見ないか」という趣旨の手紙を送ったことから、その歴史がスタートしたという。

鬼才・久保田の魅力を引きだす村田の職人芸


お笑いファンには周知のとおり、とろサーモンといえばボケの久保田がフィーチャーされがちだ。現在Amazonプライムで独占配信中の「HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル」では、松本人志に「久保田はサイコ(サイコパス)」と言わしめたほど、そのエキセントリックさは群を抜いている。

そんな「とろサーモン久保田」という暴れ馬をコントロールできる唯一の名騎手、それが村田秀亮という芸人なのだ。


その実力を広く知らしめたのが、「NHK上方漫才コンテスト」で最優秀賞を受賞した初期の十八番、「すかし漫才」だろう。久保田のボケを完膚なきまでに打ちのめしスルーしていくこのネタは、観客を不快にさせないギリギリのラインをいく村田の高い演技力が印象的だ。

一方で、久保田を自由に暴れさせながらネタを展開させていく「クレーマー」「石焼き芋屋」などのネタでは、久保田の魅力を引き出すツッコミの温かさも感じられる。久保田お得意のアドリブを一瞬で笑いに変える瞬発力も、村田だからこそなせる技だろう。

このように久保田の才能を120%引き出すことができるのは、職人芸的なツッコミで久保田を支える相方・村田の存在をおいて他にはない。

特技はボイパとコサックダンス


そんな村田は、NONSTYLE石田から「村田さんにはめっちゃ売れてほしい」、南海キャンディーズ山里から「村田さんはとてつもなく良い人。良い人であれだけ芸達者で、それを止めるのが相方、久保田という状況」と絶賛されるほど、たびたびその人柄の良さが指摘されてきた。


芸達者と言えば、特技であるボイスパーカッションとコサックダンスだろう。2006年頃には村田のボイパに久保田がボケを挿入していくというスタイルの「ビートボックス漫才」を確立したことで、とろサーモンの漫才に新たな一面がプラスされた。
またコサックダンスはたびたびテレビでも披露しているように、プロポーションの良いすらりとした肢体ゆえに地味な笑いを誘う。イケメンの無駄遣いとはこのことか……。

『あらびき団』(TBS系)ナレーションで注目される


そんな村田の存在を世に知らしめた番組といえば、ライト東野(東野幸治)とレフト藤井(藤井隆)のコンビが送る『あらびき団』である。一芸をもったパフォーマーが自慢の芸を披露するこの番組で、村田は大道芸人らのナレーションを担当。

2007年から2009年頃まで、ナレーターとして数多くのパフォーマーの演技を彩ってきた。
根強いあらびき団ファンにとって村田は愛すべき存在といえるだろう。それを示すように、2010年には「放送100記念人気パフォーマーベスト30!」のうち18位を獲得。この頃から相方久保田がナレーターとして登場し、得意の「おさわりDJ」風のマイクパフォーマンスを披露しはじめる。『あらびき団』の歴史はとろサーモンの歴史といっても過言ではない……かもしれない。

男前ゆえに俳優業も舞い込む


ところで、村田といえば「男前芸人」としても知られている。2007年には『マンスリーよしもと』の吉本男前ランキングで13位、翌年には14位を獲得するなど、よしもとが誇る美男子だ。その容姿を活かし、最近ではNetflixで配信されたドラマ『火花』(原作:ピース又吉)に芸人役として出演したほか、元AKB48の前田敦子のソロ曲MV「Selfish」で前田の恋人役に抜擢されるなど、俳優としても注目を集めている。


同MVは、前田がラブホテルで生脚を見せながら入浴したり、ランジェリー姿と裸足で通天閣下を駆け抜けるといったお色気(?)シーンでも話題を呼んだ。村田の大人の色気が、女優として一皮向けた前田の色気をより一層引き出したに違いない。

最後のM-1敗者復活戦で見せた村田の表情


そんな村田と久保田がM-1グランプリという舞台に立つことができるのは、惜しくも今年が最後。敗者復活戦では緊張の色も垣間見えたが、とろサーモンの個性を炸裂させてくれた。

「どうもこんにちは、とろサーモンでーす、よろしくお願いします!」「こちらこそ〜!」「なにがやねん!お客さんに言うてんねん」と秒速で笑いを取る2人。
「だったら“サーモン君”が先にやってくれよ」「誰が“サーモン君”やねん! “とろ君”と“サーモン君”でやってると思われるわ恥ずかしい!」。


とろサーモン定番の「電車」をベースに、『君の名は。』など時事的なテーマやワードを盛り込んで改良されたネタでは、久保田のボケのすべてを的確に、過不足なく、テンポよく拾っていった。“サーモン君”の実力に改めて感嘆させられたファンも多いことだろう。

そして待ちに待った順位発表。「4位」でとろサーモンの名前が発表された瞬間、膝から崩れ落ちる久保田。そして、そのとなりで見せた村田の表情はファンとして一生忘れることができない。
M-1にかける熱い思い、費やしてきた時間と熱量のすべてがそこに凝縮されていた。その姿が、ファンにとっては一番嬉しいクリスマスプレゼントだったはずだ。

悲しいかな今後のM-1で村田の姿を見ることはなくなったが、「続行!まだまだやるよ!」の精神で今後も幅広く活動してほしい芸人のひとりだ。最後に、「君にこう言う言葉を送るよ、メリークリスマス!」。
(ヤマグチユキコ)

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