年末の格闘技イベント『RIZIN』で、元参議院議員レスラー神取忍が久しぶりのリング復帰を果たす。
対戦相手のギャビ・ガルシアは現役バリバリのブラジルの柔術家。
身長188cm、体重110kgと男性をも圧倒する体格で、あのヴァンダレイ・シウバを絞め落とすほどの怪力を誇る。付いた異名は「霊長類ヒト科最強女子」!

「ミスター女子プロレス」「女子プロレス最強の男」と恐れられた神取ではあるが、実戦から遠のいたまま、すでに52歳。あまりに分が悪い気がするが、それでも「ひょっとして…」と思わせるのが、神取の魅力。何しろ男性プロレスラー、それもトップ中のトップと激闘を繰り広げたことがあるのだから……。

「ミスタープロレス」対戦相手の天龍源一郎


神取が試合した男性プロレスラーは天龍源一郎。アントニオ猪木、ジャイアント馬場の2大巨頭を唯一ピンフォールしたことのある「ミスタープロレス」である。
現在、その持ち前のダミ声を武器に(?)、何を言っているのかわからないしゃべりでバラエティ番組を沸かしているが、当時は終始近寄りがたい殺気をまとっていた。
50歳にして衰えることを知らないファイト、むしろ持ち前の荒々しさは増していたようにも思う。

スターレスラーをボコボコにしたデビュー2年目の神取忍


天龍は神取に対して「プロレスなんかやらないよ」と意味深な宣言。返す神取も「いや、そのつもりですよ」とケンカ腰で応戦。すでに両者ともにヤル気満々である。

神取には、かつて先輩レスラーをボコボコにした経験がある。87年7月に行われた、ジャッキー佐藤との一戦。団体内での考え方の違いからケンカマッチに発展した伝説の試合である。

ジャッキーは「ビューティ・ペア」として一世を風靡し、女子プロレスブームを巻き起こしたスターレスラー。片や神取は、柔道の実績はあったとはいえデビュー2年目。格の差は歴然だったが、お構いなしに神取は仕掛けた。
神取は顔面目掛けてのストレートパンチ連打で主導権を握る。プロレスの範疇を超えたファイトに、ジャッキーの顔は腫れ上がり、鼻血が噴き出す。最終的には柔道仕込みの関節技でギブアップ勝ちの完勝。リングサイドの選手から、すすり泣きが聞こえるほどの凄惨な試合だった。

練習相手は男性! 五輪メダリストだったかも知れない神取忍


神取は全日本選抜柔道体重別選手権3連覇、世界柔道選手権3位の実績を誇る。柔道生活のピーク時、女子柔道はまだ公開種目だった。早々に見切りを付け、女子プロレスに転向しているが、時代が少し違えばメダリストだったかも知れない逸材なのだ。
長年の柔道生活では男性との練習が大半。プロレスデビュー時も新日本プロレスの「鬼コーチ」山本小鉄の指導を受けている。「リング上では男も女も関係ない」がポリシーの神取であったが、試合は予想をはるかに超えた壮絶な展開となる。


無残に腫れ上がった顔面…それでも試合を投げない神取忍


2000年7月2日、神取が所属するLLPWのリングで運命のゴング。1ラウンド3分、ラウンド無制限の一本勝負という特別ルールだった。

張り手、ローキックで真っ向勝負。さらに一本背負いから腕ひしぎ十字固めと、得意の柔道殺法で勝負をかける神取。
体重差のある神取を軽々とボディスラム、背中に強烈なサッカーボールキック、必殺の重い逆水平チョップと、いつも以上に激しく畳み掛ける天龍。
完全に性別を超越した神取に声援が飛ぶ。

第2ラウンド、天龍はグーパンチを連打。しかも、容赦なく神取の顔面に打ち込んでいく。非情とも思えたが、これには天龍の狙いがあった。まぶたをカットすることで試合を早く終わらせようとしていたのだ。
しかし、神取が丈夫すぎたのか流血TKOにはならず、試合は続行。神取の顔が見る見る晴れ上がっていく。
気付けば、特殊メイクレベルかと思うほどに顔が変形してしまう事態に。それでも、おぼつかない足取りで食らい付いていく神取に対し、最後は見かねたセコンドがタオルを投入。2ラウンド2分11秒、天龍のTKO勝ち。
双方から意地を感じずにはいられない名勝負であった。

試合後、「今度機会があったら…奇跡を起こしたいと思います!」と絶叫した神取。年末のギャビ・ガルシア戦こそ、奇跡を起こす時! プロレスラーの凄さを見せてくれると信じてます!

※イメージ画像はamazonよりプロレス名勝負シリーズ vol.14 天龍源一郎 vs 神取忍 1995.12.8 大田区体育館 [DVD]
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