一体この光景、何度ニュース映像で目にしたことでしょうか。もはや、新年の風物詩と化している、兵庫県・西宮神社の“福男選びレース”。毎年1月10日午前6時の開門と共に、本殿への参拝一番乗りを目指して、参拝者が健脚を競うこの恒例行事ですが、今年は約5千人が集結したそうです。
凄いのはこれ、今年の1月10日は平日だったということ。にも関わらず、これだけの人が日本中から集まって、わずか全長約230メートルの参道を走るためだけに、寒空の下で何時間も待機しているのです。
13年前に起きた"妨害事件"
このように、今でこそ全国区のイベントとなっている“福男選びレース”ですが、もともと90年代頃までは、ほんのローカルな催し物の一つに過ぎませんでした。
知名度が急上昇した一因となったのは、今から13年前。自分たちの仲間を優勝させるため、組織的に他の参加者の進行を妨害するという出来事が、大々的にマスコミで報じられたことにより、不本意ながらも世間にその存在を知られるようになったのです。
優勝者の仲間が他の参加者をブロック
2004年1月10日。この日も例年通り、福男選びレースが実施されました。優勝となる一番福を獲得したのは、とある消防署の署員。いつもの平和な新年の風景……で終わるはずだったのですが、問題はここから。当時報じられたニュース映像の中に、スタートの際、前列で駆け出そうとする参加者の進行を複数名が力づくでブロックしているシーンが、鮮明に映っていたのです。
それに気付いた一部の視聴者が、西宮神社や優勝者の職場である市消防局へ、苦情の電話を鳴らします。ここで終われば、地域で発生した些細な揉め事の一つとして、内々に処理されていたはず。
しかし、ある新聞社が事態の沈静化を許しませんでした。10日の夕刊に『えべっさん(西宮神社の愛称)苦笑い』『「一番福」仲間がアシスト!?』なる見出しの記事を掲載したのです。
街の英雄⇒モザイク・偽名報道へ
ここから一気にマスコミの報道は加熱。翌11日以降は、TVのニュース・ワイドショーで、度々検証VTRが放送されることになります。その際、優勝者である消防署署員の顔には、モザイク処理がバッチリ施されていました。
つい1日前までは街の英雄扱いで、顔も本名もはっきりと公開されていたのに、この落差……。聞き込みを受けたAさんが実は真犯人だった、ということで、モザイク・偽名報道⇒素顔・実名報道に切り替わるようなことはたまにありますが、これは世にも珍しいその逆パターン。
誇らしげに街を闊歩していた英雄は、一夜にして犯人のような立場へと変わってしまったのです。
3日後に一番福を返上、幕を閉じた騒動
この一件、消防署署員とその仲間たちに非があるのは、間違いありません。けれども、越権行為ではあっても、犯罪行為ではないのも事実。それに、こうした福男選びにおける妨害事案は、2004年以前にも確認されていたと、一部では伝えられています。
彼らにとって不運だったのは、妨害行為の映像がしっかりと残っていたこと。そのために検証VTRが作成されるなど、様々なカタチで報道されて、まるで大罪を犯した犯人かのような批判を浴びるハメになってしまった……。自業自得とはいえ、さすがに気の毒という他ありません。
結局、福男選びから3日後の1月13日、優勝した消防署署員が一番福を返上したことで幕を閉じたこの騒動。ちなみに、レースの景品は、酒・米の引き換え券とえべっさんの絵馬・像(大)、福男認定書だそうです。手に入れようとした品物に対して、支払った代償はあまりにも大きかったといえるでしょう。
(こじへい)