秋田県の北東端、鹿角市にある「キララ新町」というレトロな雰囲気の商店街に、地元・秋田のブドウを使ってワインを造る「ワイナリーこのはな」がある。
商店街の中にあるワイナリーというだけでもユニークだが、さらにユニークなのは、撤退したパチンコ店の跡地を工場にしていること。パチンコ店の看板がそのまま残っているので、なんともいえない味がある。
「パチンコ店の看板は、残したくて残しているわけじゃないんですよ。撤去にもお金がかかるから(笑)」
そういって笑うのは、この日案内してくれた同ワイナリーの三ケ田美香子さんだ。
さすがに内部は改装され、タンクや各種機械が並んで工場らしくなっていたが、実はもうひとつユニークなところがある。
それは倉庫。パチンコ店の左隣にある元銀行の建物を倉庫として利用している。
建物の看板こそ、銀行が去ったあとに入居した「鹿角ショッピングスタンプ」になっていたが、内装は基本的に銀行時代のまま。その証拠として、部屋の奥に金庫室があった。
金庫室の中の棚には現金……ではなく、ワインのボトルがズラリ。
「金庫室は年間を通じて温度変化が少なく、ワインの保管に向いています。ただ、はじめの頃は私たちも扱い方がよくわからなくて、扉を閉めたら開かなくなってしまい、焦ったこともありました」(三ケ田さん)
そのため、今は扉の側面にコルクを貼り、完全には閉まらないようにしているのだとか。
「秋田県はワイナリーが少なく、うちを入れて3軒だけ。でも、隣の小坂町(秋田県)ではワイン用ブドウの栽培を30年も前からやっていました」(三ケ田さん)
地元にはワイナリーがなかったため、小坂町で作ったブドウは他県のワイナリーに原料として販売されていた。しかし、採れ過ぎた年などは、すべてを買い取ってもらえないこともあった。さらに高齢化も進み、小坂町のブドウ農家は減りつつあった。
「地元にワイナリーができれば、運搬コストも減らせるし、ブドウの痛みも少なくてすむ。それに秋田のワインを造ることができれば、ワインをきっかけに若者がブドウ造りに興味を持ってくれるかもしれない」
そんな思いから、当時パソコン教室の先生だった一弥さんは、未経験にもかかわらず、2010年にワイナリーを設立。最初は知り合いから経験者を紹介してもらい、共にワイン造りを進めたそうだ。ちなみにパチンコ店の跡地を選んだのは、たまたま建物が一弥さんの実家の持ち物だったからとか。
ワイナリーこのはなの生産量は年間約1万本。本当に小さなワイナリーだ。商店街という立地から面積にも限りがあり、設備にそこまでお金をかけられないこともあって、基本的にはすべて手作業。コルクも1本1本手打ちだし、ラベルも手で貼っている。小学生が社会科授業で、コルク打ちからラベル貼り、キャップシール貼りを体験していくこともあるそうだ。
立地こそユニークだが、造るワインは正統で、すでに評価も高い。小坂町で作られているのは、おもに赤ワイン用のブドウ品種であるワイングランド、小公子、ヤマソーヴィニヨン。ワイナリーこのはなでは、これらのブドウを使った赤ワインを中心に造っている。
個性的なのは、小公子を使った「鴇(ときと)小公子」という辛口の赤ワイン。なんと赤ワインなのに、刺身や寿司にも合う。
「約1000年前に小坂町のすぐ近くにある十和田湖が噴火したときに、火山灰が小坂町に降り積もり、ブドウ栽培に適した土壌になりました。白ワインのようなミネラル感があるので、赤ワインでも魚に合うのだと思います」(三ケ田さん)
樽を使わず、ステンレスタンクで発酵醸造をしているため、ブドウのシンプルな香りと味わいを楽しめるのだという。
ワイナリーこのはなの商品が買えるのは、工場向かいにある同ワイナリーのワインショップのほか、地元の酒小売店や一部スーパー、秋田空港など。東京ではワインバーや秋田の郷土料理を出す店などで出会うチャンスがある。また、オンラインショップでも購入可能だ。
ただ、できれば現地まで足を伸ばし、このユニークな立地とともに楽しみたいところ。商店街なので一般的なワイナリーに比べて行きやすく、観光ついでにフラリと立ち寄れるのもいい。工場見学も随時受け付けているそうだ。近くには日本酒の「かづの銘酒」もあるので、お酒好きなら合わせて巡るのも楽しそうだ。
(古屋江美子)
商店街「キララ新町」にあるワイナリー
ワイン工場にはパチンコ店の看板が
商店街の中にあるワイナリーというだけでもユニークだが、さらにユニークなのは、撤退したパチンコ店の跡地を工場にしていること。パチンコ店の看板がそのまま残っているので、なんともいえない味がある。
「パチンコ店の看板は、残したくて残しているわけじゃないんですよ。撤去にもお金がかかるから(笑)」
そういって笑うのは、この日案内してくれた同ワイナリーの三ケ田美香子さんだ。
さすがに内部は改装され、タンクや各種機械が並んで工場らしくなっていたが、実はもうひとつユニークなところがある。
銀行の金庫室にワインがズラリ
それは倉庫。パチンコ店の左隣にある元銀行の建物を倉庫として利用している。
建物の看板こそ、銀行が去ったあとに入居した「鹿角ショッピングスタンプ」になっていたが、内装は基本的に銀行時代のまま。その証拠として、部屋の奥に金庫室があった。
金庫室の中の棚には現金……ではなく、ワインのボトルがズラリ。
「金庫室は年間を通じて温度変化が少なく、ワインの保管に向いています。ただ、はじめの頃は私たちも扱い方がよくわからなくて、扉を閉めたら開かなくなってしまい、焦ったこともありました」(三ケ田さん)
そのため、今は扉の側面にコルクを貼り、完全には閉まらないようにしているのだとか。
パソコン教室の先生が醸造家へ
「秋田県はワイナリーが少なく、うちを入れて3軒だけ。でも、隣の小坂町(秋田県)ではワイン用ブドウの栽培を30年も前からやっていました」(三ケ田さん)
地元にはワイナリーがなかったため、小坂町で作ったブドウは他県のワイナリーに原料として販売されていた。しかし、採れ過ぎた年などは、すべてを買い取ってもらえないこともあった。さらに高齢化も進み、小坂町のブドウ農家は減りつつあった。
そんな現状を知り、地元にワイナリーをつくろうと思い立ったのが、ワイナリーこのはなの社長の三ケ田一弥さん。この日案内してくれた三ケ田美香子さんのご主人だ。
「地元にワイナリーができれば、運搬コストも減らせるし、ブドウの痛みも少なくてすむ。それに秋田のワインを造ることができれば、ワインをきっかけに若者がブドウ造りに興味を持ってくれるかもしれない」
そんな思いから、当時パソコン教室の先生だった一弥さんは、未経験にもかかわらず、2010年にワイナリーを設立。最初は知り合いから経験者を紹介してもらい、共にワイン造りを進めたそうだ。ちなみにパチンコ店の跡地を選んだのは、たまたま建物が一弥さんの実家の持ち物だったからとか。
コルク打ちもラベル貼りも手作業
ラベル貼り。引き出しを改造して固定
ワイナリーこのはなの生産量は年間約1万本。本当に小さなワイナリーだ。商店街という立地から面積にも限りがあり、設備にそこまでお金をかけられないこともあって、基本的にはすべて手作業。コルクも1本1本手打ちだし、ラベルも手で貼っている。小学生が社会科授業で、コルク打ちからラベル貼り、キャップシール貼りを体験していくこともあるそうだ。
刺身にも合う赤ワイン
ブランド名「鴇(ときと)」はブドウを作っている畑の地名
立地こそユニークだが、造るワインは正統で、すでに評価も高い。小坂町で作られているのは、おもに赤ワイン用のブドウ品種であるワイングランド、小公子、ヤマソーヴィニヨン。ワイナリーこのはなでは、これらのブドウを使った赤ワインを中心に造っている。
個性的なのは、小公子を使った「鴇(ときと)小公子」という辛口の赤ワイン。なんと赤ワインなのに、刺身や寿司にも合う。
「約1000年前に小坂町のすぐ近くにある十和田湖が噴火したときに、火山灰が小坂町に降り積もり、ブドウ栽培に適した土壌になりました。白ワインのようなミネラル感があるので、赤ワインでも魚に合うのだと思います」(三ケ田さん)
樽を使わず、ステンレスタンクで発酵醸造をしているため、ブドウのシンプルな香りと味わいを楽しめるのだという。
工場見学も随時受け付け
ワインショップと三ケ田美香子さん
ワイナリーこのはなの商品が買えるのは、工場向かいにある同ワイナリーのワインショップのほか、地元の酒小売店や一部スーパー、秋田空港など。東京ではワインバーや秋田の郷土料理を出す店などで出会うチャンスがある。また、オンラインショップでも購入可能だ。
ただ、できれば現地まで足を伸ばし、このユニークな立地とともに楽しみたいところ。商店街なので一般的なワイナリーに比べて行きやすく、観光ついでにフラリと立ち寄れるのもいい。工場見学も随時受け付けているそうだ。近くには日本酒の「かづの銘酒」もあるので、お酒好きなら合わせて巡るのも楽しそうだ。
(古屋江美子)
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