先日、真夜中のTSUTAYAでとんでもない説明文が書かれたDVDを見つけた。このプロットのパンチ力は凄い。
バレンタインが近い店内ではカップル達が楽しそうに恋愛映画を選んでいたが、本連載『キネマ懺悔』において優先すべきは恋愛よりも極道である。泣けるぜ……じゃなくて、もはや動画配信サービスすらされていない、90年代や2000年代初頭の隠れた名作を探してボロボロのディスクを再生プレーヤーに入れる喜び。
さっそく『極道甲子園』の作品詳細を見ると、裏社会に高値で売れる人材を送り込むスカウト兼エージェント役の滝本を演じるのが当時40歳と脂の乗り切った竹内力。しかも製作総指揮と主演を兼ねるという本気感。さらに共演は故・松方弘樹、小沢仁志、遠藤憲一といった90年代Vシネマ界スターたちが集結している。
果たして、そこでどんなドラフト会議が繰り広げられるのだろうか?
「極道ドラフト会議」の流れ
まず冒頭にこんなテロップが流れる。
『ドラフトとは本来「徴兵制」を意味する言葉だ。プロ野球では「新人選手の選択会議」のことだが、裏社会では文字通り「徴兵」という意味で使われている。非凡な才能を携えた者は、エージェントにより発掘され、金銭取引によるドラフト会議にかけられる』
そして、極道ドラフト会議が開催されるだだっ広い工場跡を改装したような会場には、日本中から組織の幹部クラスが集結。なぜか無意味にビキニ姿のおネエちゃんたちがカクテルを作るお約束の環境で、司会進行役(野球のドラフトでいうパンチョ伊東)もしっかりいるこだわりよう。
会議の流れはこうだ。選手紹介映像を流しながら、エージェントが幹部達の前でプレゼン。もちろん「ボケェ!こないなガキ、どこにでもおるやろ」「もうちょっとスペシャリストってやつ出さんかい!」なんつってガチで怖い野次を飛ばす仕事人・小沢仁志は健在だ。
それでもエージェントは怯まず、「待ってください。この選手は稀に見るドライビングテクニックを武器に逃走はもちろん、アクロバット的な動きもマスターしている元スタントマンです」としっかり選手の特徴をプレゼンしてみせる。
ディテールにこだわった『極道甲子園』
すると次から次へと出てくる、その筋の即戦力ルーキーの面々。マネーゲーム要員の中年銀行マン、怪しい新薬開発のスキルを持つ医大生、わずか5万円で買い叩かれそうになる若いチンピラ、そして全チームが欲しがる超高校級……じゃなくて超極道級選手のターミネーターのような現役自衛隊員(懐かしの佐竹雅昭)まで人材豊富。
ちなみに複数指名となった場合は、入札方式で契約交渉権を決定。各組織代表が選手に支払う1カ月の手当料を紙に書き、最も金額が高いチームが落札する意外と真っ当なシステム。『極道甲子園』はここら辺の細部の作り込みが素晴らしい。この手のとんでも設定映画の生命線は「ディテール」だ。いつの時代もネタは細部に宿る。
ついでに書けば、プロ野球のドラフト展望記事やFAプロテクトリスト予想も、重要なのは「結果」ではなく「細部」なのである。
例えば、悪徳エージェント役の中野英雄が「死んじまったか……あいつは走攻守三拍子揃った殺し屋だったのにな」と真顔で呟くシーンは、正直本筋には1秒も関係ない。でも、作品の世界観の細部を補完するのには必要不可欠な一言だ。脚本・小林弘利のファインプレーだろう。
やっぱり竹内力は最高だ
では『極道甲子園』は傑作なのか? そう問われると、答えは風に吹かれていると遠い目で返すしかないクオリティ。
エージェント滝本(竹内力)は、秘書のエリカ(嘉門洋子)とドラフト外で獲った元空き巣の神田(野村祐人)を雇い、組織がどんな人材を欲しているか極秘調査するが、やがて滝本自身が極道ドラフト指名を目指す若者たちに命を狙われるハメに……というストーリーは退屈で、前半部のドラフトシーンのインパクトが強すぎてほとんど頭に入って来ない。いっそ密室のドラフト映画で押し通した方が良かった気すらしてしまう。
それでも、やっぱり竹内力は最高だ。嫌がらず照れずに、とことん真剣に馬鹿をやってくれるから。まさにプロフェッショナル仕事の流儀。エンディングで流れるテーマソング『Get over the top』も竹内自身が歌う気合いの入れよう。
その熱に触発されるかのように、伝説のヤクザに扮した松方弘樹も「超大物なのに単独指名。なぜなら裏で組織を逆指名したから」なんてなんだかよく分からないキャラを圧倒的な存在感で演じきる。
強面の有名役者たちが真面目な顔して挑む、極道ドラフト会議。あなたもテレビの前から、ぜひ参加してみてはいかがだろうか?
『極道甲子園』
発売日:2004年4月25日
監督:鈴木浩介 出演:竹内力、松方弘樹、小沢仁志、野村祐人、嘉門洋子
キネマ懺悔ポイント:38点(100点満点)
紅一点の嘉門洋子が劇中で顔に硫酸をかけられて以来、整形手術を繰り返すというヘビィな女の子役を明るく熱演。ラストシーンでは顔面を包帯でグルグル巻きにして登場する役者魂を見せた彼女も、来月には37歳になる。
(死亡遊戯)
※イメージ画像はamazonより極道甲子園 [DVD]