ダウンタウン松本人志による時事ニュースへのコメントは、毎週日曜日の恒例行事だ。
政治経済から芸能ニュースに至るまで『ワイドナショー』(フジテレビ系)の発言が、その日のうちにネットニュースとなる。
松本が芸能界の御意見番となりつつあるのは確かだろう。

そんな“モノ言う”松本の原点といえる仕事が1993年から95年にかけて『週刊朝日』(朝日新聞社)に連載された「オフオフダウンタウン」である。
のちに『遺書』『松本』(ともに朝日新聞社)として単行本にまとめられ、特に『遺書』は200万部を超えるベストセラーとなった。週刊誌連載で松本は何を書いていたのか、あらためて読み解いてみたい。

すべて自分で執筆した松本人志


連載時、松本の年齢は30歳から32歳にかけてであった。1991年12月にスタートした冠番組『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)なども人気を集め、若手芸人のホープとして注目されていた。
しかしその一方で、松本の傲慢不遜な態度が週刊誌などでバッシングされることもあり、ヒールとしての側面も存在した。


この連載で注目すべきなのは「すべて自分で書いている」点であろう。何を当たり前のことを、と思うかもしれない。
しかし、芸能人のコラムは、本人の語りおろしをライターや編集者がまとめるスタイルがほとんどである。さらに、身辺雑記や芸能界の仲良し交遊録が記された“ヌルい”ものも多い。

毒舌と本音が満載だった連載


だが、松本の連載は毒舌と本音がスパークしている。

連載初回「ウンコちゃんのような質問は、やめてください」においては「ダウンタウンは、ほんとうにすごい二人なのである」と自画自賛を隠さない。

第2回「審査員の藤本義一君 笑いに携わるのは、やめなさい!」では、『ABCお笑い新人グランプリ』(朝日放送)をはじめ、関西のお笑いコンテンストの審査員に名を連ねる作家の藤本義一を「君は、素人以下だ! 笑いに携わるのをやめなさい」と酷評する。

今ならば『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)の出演芸人が、審査員を腐すようなもの。松本の怒りの度合いがうかがえる。

ほかの連載回では、相方である浜田雅功、尊敬する先輩芸人である島田紳助、苦楽を共にした大崎洋マネージャー(現・吉本興業社長)、年下の親友であるプロボクサーの辰吉丈一郎らとの感動秘話も披露されている。

「百害あって一利なし」松本人志が語っていた結婚観


さらには、女性関係や、極貧の生い立ちなどプライベートな部分にかなり踏み込んだ描写もある。

「結婚についてタップリ書いてやるぞコノヤロー!」では、「結婚しないんですか?」の質問に答え、「結婚というものは、おっそろしいものである。いつ家に帰っても同じ女がいるのだぞ……ギャー。考えただけでも身の毛がよだつ話である」と述べ、「ガキができたらそれこそ最悪」「オレのようなコメディアンにとって、家族というのは百害あって一利なしなのではないだろうか?」とも書いている。


同じ人物が、15年後に結婚し家庭を持つとは信じられない記述だ。

現在も言及される"チンカス発言"も


連載最終回となる「お笑いを愛する者として、最後に若い人たちへ」では語りおろしのスタイルが取られている。これはおそらくインタビューをもとにしたものだろう。
連載について「(最初は)短時間で書けたのが、どんどん時間がかかるようになってきてね」と回顧しており、当時の松本にとって、この連載が大きな比重を占めていたとわかる。

さらに現在でも時おり言及される「ナインティナインなんて、ダウンタウンのチンカスみたいじゃないですか。悲しいですよね」発言もこの回で登場している。


20年以上前の書籍だが、あらためて松本の文章を読んでみたいとも思わせるものだった。

参考文献:松本人志『「松本」の「遺書」』(朝日文庫)


※イメージ画像はamazonより遺書