プロ野球とメジャーリーグで活躍した高橋尚成さん(スポーツ報知評論家)。現役時代は150km/hを超えるスピードボールはなくとも、多彩な変化球やコントロール、投球術で打者を翻弄しました。

今回はそんな高橋さんに日米の打者を抑えるため、意識していた点をお聞きしました。

高橋尚成が語る「頭の使い方」


高橋尚成が語る"頭を使う"投球術「メジャーで有効だったのはアウトハイ」
インタビューに応じて頂いた高橋尚成さん

高橋さんはプロ野球選手としては決して体が大きくなかったこともあり、プロの世界で成績を残すため、「トータルで勝負しないといけない。まずはやはり頭を使わなくてはいけなかった」と振り返ります。

具体的にどのように頭を使っていたのでしょうか。高橋さんはこう説明します。

「見逃し方やバットの出方など、常に打者を観察することですね。それに加えて、キャッチャーの指示やスコア状況など、すべてを判断して投げていました」

「ストライクゾーンの奥行きを使う」


また、別のインタビューで投球術について聞かれた際、高橋さんは「3次元的なストライクゾーンを持つことが必要」とも語っていました。打者を抑えるためには、"奥行き"を広く使うことが必要だそうです。

「ストライクゾーンの奥行きを凄く使わないと、良いバッター抑えられないと思うんですね。それを意識するだけでも、だいぶ違うのではないでしょうか」

奥行きを最大限に使うため、同じ変化球でも状況によって使い分けていたのだとか。

「カーブを投げるにしても、手前に落とすこともあれば、奥にも落とすという使い方をしていました。同じ球種でも、腕の振りを速くしてポンッと抜くボールだったり、キュッと曲がるようなボールだったりと、2~3種類を使い分けていました」

高橋尚成流・コントロールの磨き方


しかし、このように巧みにボールを操るためには、コントロールの良さが必要不可欠。高橋さんは現役時代からかなりコントロールが良い印象でしたが、どのようにして身につけたのでしょうか。

「そもそもプロの投手なら、ブルペンで10球中、7~8球はストライクを投げられると思います。プレッシャーが何もない状況ですからね。
でも、試合になると状況はもちろん異なります。そのため、ブルペンでも試合を想定して、どうカウントを取って打者を打ち取るか、常に考えて投げていました」


このようにブルペンでも、常に頭を使って投げていたという高橋さん。試合で良い結果を出すためには、ブルペンで何をすべきか、徹底的に考え抜かれていました。

「全力でやみくもに投げることはしなかったですね。そんなの体に良くないとも思っていたので。試合ではセットのシチュエーションの方が多いんですよ。だからランナーがいることを想定して、ブルペンではセットで投げる方を多めにしていました。何アウト1塁のケース、何アウト2塁のケース、満塁、1・3塁……と色々な場面を想定して投球していましたね」

アメリカで通用したボールとは?


ところで、日本だけでなく、アメリカでも活躍された高橋さん。当然、日米の打者では違いがあり、それによって攻め方も変化していたはず。

そこで思い出されるのは、昨年に『S 1』(TBS系列)で行われた田中将大&前田健太の対談です。この対談で両者は、「ローボールヒッターが多く、困ったら外角低めは通用しない」「通用するのはインハイ」などと語っていましたが、この意見に対しては高橋さんも同意します。

「その通りですね。力があるからか分からないですけど、バットが下から出てくるバッターが多いです。
日本だとボールに負けちゃうようなバットの使い方でも、パワーがあるので長打にできるんですよ」


また、高橋さんもアメリカでは、高めの球が通用すると感じたとのことです。
高橋尚成が語る"頭を使う"投球術「メジャーで有効だったのはアウトハイ」
インタビューに応じて頂いた高橋尚成さん

「意外と使えるなと思ったのは、アウトハイです。バットが下がって出てくるので、打ってもファールになるんですよね。アウトハイからアウトローにチェンジアップ(注:日本ではシンカーと呼ばれていた球。アメリカではチェンジアップと呼ばれる)を落としたり、そこに緩いカーブを投げることもよくやっていました。特にアメリカの主流は、カットやツーシームなどの小さく動く速い球なので、大きく変化する緩い球に弱いと思いましたね」

メジャー球への対応は"気持ち"だけ!?


ところでアメリカといえば、違いは打者だけではなく、マウンドやボールの違いも多くの日本人投手を苦しめてきました。高橋さん自身はメジャー1年目から10勝を挙げるなど、早くから順応していた印象ですが、なにか特別な対策をしていたのでしょうか。

「そういうものだから対応するしかないという気持ちになっただけですね。よくボールとマウンドが違うといわれますが、それはアメリカでは昔から同じですし、自分で選んだ道なのに文句を言うのはおかしいだろうなと。マイナスの考え方ではなく、プラスの考えでマウンドに上がった方が良いですしね」

WBCでも、よくボールの違いなどが取り沙汰されますが、高橋さんは次のように指摘します。

「今回のWBCでもよく、滑るボールがどうと言われましたが、それはWBCが始まってからずっと言われていることなので、それに対してとやかく言うのはおかしいんじゃないかなと個人的には思います。それがルールですしね」

高橋尚成のWBC注目選手は?


さて、WBCの話題も出たところで、高橋さんに今回のWBCの見どころについてお聞きしました。
まずはメンバーについて。
日本人メジャーリーガーや大谷選手が辞退し、一部では苦戦が予想されていますが、高橋さんはこう分析します。

「やってみないと分からないですが、僕は世界で十分通用するようなメンバーを集めているのではと思いますね」

それでは、高橋さんが注目する選手は誰でしょうか。投手では巨人の菅野智之投手、打者ではアストロズの青木宣親を挙げます。

「投手ではやっぱり菅野(智之)ですね。大谷がいなくなり、完全にエースの役割を担っています。打者では青木(宣親)かな。アメリカの野球を経験しているのが青木ひとりですので、彼の配慮やアドバイスひとつでチームが変わってくる気がするんですよね。勝ち上がっていくためにも、第1回、第2回大会時のイチローさんのようになることを期待したいです」

WBCでは、高橋さんが名前を挙げた菅野、青木両選手をはじめ、多くの選手たちの活躍に期待したいところです!
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