スコットランド、エジンバラ郊外の恐ろしく何もない港町リースでドラッグにおネエちゃん、恐喝に盗みとなんでもありの日常を生きる若者たちを描いた映画『トレインスポッティング』の続編、『T2 トレインスポッティング』が2017年4月から日本公開される。
売れっ子の大御所になって再集結
アーヴィン・ウェルシュの処女作が原作だった前回に続き、今作もダニー・ボイル監督と脚本ジョン・ホッジのコンビが、03年に出版された『トレインスポッティング ポルノ』をベースに映像化。
すでに動画サイト等でトレスポ2の予告編が観れるが、96年公開の第1作に出演した役者陣がそのまま20年歳を取り、懐かしの登場人物たちを演じている。
前作撮影前に妻がコントロールするダイエットプログラムで10キロ以上体重を落とし、主役のマーク・レントン役を手に入れた当時24歳の俳優ユアン・マクレガーはこの作品を機に人気が爆発した。数年後には『スター・ウォーズ』新三部作のオビ=ワン・ケノービ役を演じる成り上がり役者人生。
監督のダニー・ボイルも2008年公開の『スラムドッグ$ミリオネア』でアカデミー監督賞を受賞。いわば、当時の若手注目株的なメンツが売れっ子の大御所になって再集結したのである。
「洋楽の入門編」的な役割を果たした『トレインスポッティング』
新作の予告編で街に戻ったレントンとシック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)が、しばしの沈黙の後「…20年ぶりだな」と再会を果たす新作のシーンを観るとやはり感慨深い。
今、自分の手元には高校生の頃に買った2枚のCDがある。『トレインスポッティング』サントラ盤の1と2だ。96年公開当時、多くの日本の若者にとってこの映画は内容の衝撃度に加え、「洋楽の入門編」的な役割を果たしていたように思う。そう言えば最近あまり「洋楽」って単語聞かなくなったな……というのは置いといて、多くの少年少女はトレスポから「クスリダメ絶対」と同時に、洋楽を知ったのである。
オープニングで鳴り響くイギー・ポップ『Lust For Life』に始まり、ブラー、プライマルスクリーム、ニューオーダー、パルプ、ルー・リード、そしてラストシーンのアンダーワールド『Born Slippy』まで。このサントラでそれらの音楽を初めて聴いて目覚め、その後それぞれのアーティストのCDを買いに走った人も多いのではないだろうか。
もちろん、YouTubeやiTunesなんて便利なものはどこにも存在しないので、街のCDショップへチャリを立ちこぎダッシュ。
洋楽が身近な存在になった90年代後半
ちなみに、『トレインスポッティング』の日本公開は96年11月30日。翌97年夏には、富士天神山スキー場であの伝説と化している豪雨の中での第1回フジロックが開催された。
そして99年には今も続く新潟県苗場の3日間開催が定着することになる。90年代後半、気が付けば日本のリスナーにとって洋楽はずっと身近な存在になっていたのである。
当時、埼玉の田舎町から、トレスポのサントラを流しながら接続したばかりのインターネットで第1回フジロックの様子を追い、「雑誌や新聞の発売を待たずに現地の様子が分かるなんて凄い時代がやってきた」と18歳の俺はアホみたいに感動していたわけだ。
あれから20年。2017年、フジロックには第1回以来20年ぶりにエイフェックス・ツインの出演発表。ついでに先日のミュージックステーション生出演中に、48歳の小沢健二も「フジロックに出ます」宣言。そして、「未来を選べ。人生を選べ」とヤケクソで疾走していた若手役者たちが、それぞれ中年のおじさんとなって20年ぶりの『トレインスポッティング』続編公開。
個人的に90年代カルチャーリバイバルは懐かしい、と同時に行き過ぎたノスタルジーは危険だと思う。過去とは麻薬みたいなものだ。一種の中毒性がある。最近よく、トレスポ1作目でヒロインのダイアンがレントンに向かって言うあの有名な台詞を思い出す。
「老けちゃうわよ。世の中も音楽もドラッグも変化しているのに昔のロックスターに憧れて家にこもるなんて。とにかく何か始めなきゃ」
『トレインスポッティング』
発売日:1996年11月30日
監督:ダニー・ボイル 出演:ユアン・マクレガー、ユエン・ブレムナー、ロバート・カーライル、 ケリー・マクドナルド
キネマ懺悔ポイント:98点(100点満点)
93年クリスマスにスコットランドに帰る飛行機の中で原作小説を読んだ本作プロデューサーのアンドリュー・マクドナルドは、ユアン・マクレガーに対して「もし2ストーン(約12.7キロ)落とせたら、主役をやってもいいよ」とオファーしたという。
※イメージ画像はamazonよりトレインスポッティング [DVD]