ならば、もしも90年代後半にWBCがあれば最強の日本代表ドリームチームが実現していたのではないだろうか? よく酒の席で話題になる野球ファンの妄想トーク。今回はWBC開幕記念コラムとして「今から20年前の春にWBC開催」という前提で97年版侍ジャパンチームを選出してみよう。
イチローと松井のコンビ、監督は長嶋茂雄
97年大会ということで、選考基準になるのは96年シーズンの成績だ。オリックスが初の日本一に輝き、長嶋巨人がメークドラマを完遂させたこの年、セMVPは初の3割・30本をクリアした22歳の松井秀喜。もちろんパ・リーグは23歳のイチローが3年連続MVP&首位打者獲得と絶頂期にあった。
侍ジャパンでも3番イチロー、4番松井が組む若く夢溢れる「IMコンビ」結成は間違いないところだ。
もちろん監督は「いわゆるひとつの国民的行事ですねぇ」と当時60歳で元気ハツラツ長嶋茂雄が日本代表を指揮。それを「なんでワシやないんや」と神宮からボヤくヤクルト野村克也監督。もうこれだけでテレビ視聴率50%突破は固い。
野手陣のスタメンは?
野手陣スタメンで1番を打つのは、50盗塁でタイトルに輝いた赤ヘルの核弾頭・緒方孝市。パ・リーグで58盗塁の村松有人(ダイエー)も捨てがたいが、村松0本塁打に対して緒方は23発と今で言う鈴木誠也のような走攻守バランスの取れた外野手だった。
2番ショートは90年代最多の1527安打を放った野村謙二郎(広島)。当時売り出し中で50盗塁を記録した若武者・松井稼頭央(西武)と迷ったが、総合力と経験値で野村を選出した。
3番イチロー、4番ゴジラ松井の国民的スーパースターコンビは不動。
ちなみに96年の巨人では、大ベテラン落合博満が打率.301、21本と43歳としては驚異的な成績を残していたが、8月末に左手首への死球で骨折。そして、落合と並んで「天才バッター」と評された前田智徳(広島)も95年に右アキレス腱断裂の大怪我を負っていたため、大事を取って97年春のWBCも不参加が濃厚である。
となると5番には日本シリーズやオールスターの大舞台で無類の強さを誇っていた、96年オフに西武から巨人へFA移籍したばかりの清原和博。6番には39本塁打で松井を抑え、初タイトルを獲得した山崎武司(中日)。7番は90年代計248本塁打を放ったスラッガー江藤智(広島)と超重量級打線が完成。
捕手は城島こそ、まだ2軍生活が続くダイエーのイチ若手だったが、34歳伊東勤(西武)、31歳古田敦也(ヤクルト)、29歳中村武志(中日)、27歳吉永幸一郎(ダイエー)、26歳谷繁元信(横浜)と「捕手冬の時代」の2017年からしたら驚愕の充実度。その強者揃いの中でも正捕手はやはり古田だろう。
二塁手も激戦区だ。96年の立浪和義(中日)は165安打、打率.323を記録。現代表監督でプロ3年目小久保裕紀(ダイエー)は24本、82打点と当時の球界ではレアな「一発の打てるセカンド」として君臨。だが、すでに右の大砲タイプは充実しているため、守備面も加味し立浪を選出した。
控え野手では34歳秋山幸二(ダイエー)に今回の代表で言う内川聖一的な役割を託したい。
野茂英雄は辞退? 投手陣の面々
一方の投手陣だが、野茂英雄(ドジャース)はメジャー挑戦時の喧噪を考えると、まだNPBとの関係は険悪で自ら代表辞退を申し出るのではないか。
となると、日本のエースは2年連続の沢村賞、最多勝獲得と絶頂期にあった斎藤雅樹(巨人)になるはずだ。他には16勝を挙げた24歳の西口文也(西武)、206三振で最多奪三振のタイトルを獲得した先発時代の斎藤隆(横浜)、左腕では14勝の今中慎二(中日)、13勝の星野伸之(オリックス)らの名前が挙がる。
95、96年と最優秀防御率獲得の伊良部秀輝(ロッテ)も招集したいところだが、96年オフにメジャー移籍を巡り球団と激しく衝突。とてもじゃないがWBCに参加できるような状況ではなかった。
もちろんクローザーは、29SPで最優秀救援投手を獲得した大魔神・佐々木主浩(横浜)で決まり。ブルペンは23セーブ、防御率1.70と抜群の安定感を誇っていた佐々岡真司(広島)、30SPでパ・リーグのタイトルを分け合った赤堀元之(近鉄)、成本年秀(ロッテ)、国際大会で重宝する変則サイド枠で21セーブの高津臣吾(ヤクルト)と錚々たる陣容。
左のワンポイント要員には96年から制定された「最優秀中継ぎ賞」の初代受賞者、河野博文(巨人)。そして昨年何かと世間を騒がせた野村貴仁(オリックス)らが候補に挙がる。未来から使者を送り、ベンチで清原の隣に座らないよう首脳陣に目を光らせてもらおう。
こうして「97年版侍ジャパン」を選出してみると、まだ海外移籍もほとんどなく、国内のビッグネームが顔を揃えることが分かる。
今思えば、平和な嵐の前の静けさ。数年後、彼らは皆、海の向こうのメジャーリーグを目指すことになる。
【1997年版 侍ジャパン】
監督:長嶋茂雄(巨人/60歳)
1 緒方孝市(中堅/広島/28歳)率.279 23本 71点
2 野村謙二郎(遊撃/広島/30歳)率.292 12本 68点
3 イチロー(右翼/オリックス/23歳)率.356 16本 84点
4 松井秀喜(左翼/巨人/22歳)率.314 38本 99点
5 清原和博(一塁/巨人/29歳)率.257 31本 84点
6 山崎武司(DH/中日/28歳)率.322 39本 107点
7 江藤智 (三塁/広島/26歳)率.314 32本 79点
8 古田敦也(捕手/ヤクルト/31歳)率.256 11本 72点
9 立浪和義(二塁/中日/27歳)率.323 10本 62点
P 斎藤雅樹(投手/巨人/31歳)16勝4敗 率.2.36