メジャーリーグとミュージシャン。一見すると接点がないようにみえる二人であるが、実は過去に両者は対談したことがあるのをご存じだろうか。
対談が行われたのは2006年1月、BSデジタル放送の民放5局共同特別番組として放送された。当時、イチローは32歳、矢沢は56歳だった。
イチローが矢沢永吉に語った夢
収録は矢沢が所有する都内一等地のビル(レコーディングスタジオなども完備)にイチローが招かれる形で行われ、終始和やかなムードで進められた。
対談では、イチローが矢沢に夢を語る場面があった。イチローの夢とは、「50歳まで現役バリバリでプレイする」というもの。おそらく、矢沢が50歳を超えてもなお第一線で活躍する人物であるため、この話題を持ちかけたのだろう。
矢沢にこの夢を持つのはなぜかと尋ねられたイチローは、設備や道具などが昔と比べて格段に進化しているにもかかわらず、選手の寿命だけが昔と同じはおかしい。大半の選手は40歳で引退するという固定観念を変えたいと語っている。
二人に共通する想いとは?
しかし一方の矢沢も、30歳くらいのときには「俺、50歳まで歌うぞ」と周囲に言っていたという。
というもの、当時は「50歳過ぎて、まさか武道館でマイク蹴飛ばしてちゃいけねえだろう」という固定観念があった。だからこそ、それに抗って「いや、俺はやるよ」というモチベーションに変わったとイチローに語っている。
イチローと矢沢、フィールドは違えど、第一線で戦い続けることで「固定観念を変えたい」という共通の想いを持っていたことが分かるだろう。
イチローと矢沢は似ている?
互いが似ていることを、矢沢自身も感じたのだろうか。対談では矢沢が、「イチローさん、ヤザワの若いときに似てますよ」と称した場面もあった。
その理由を矢沢は次のように語っている。
「イチローさんがさっきから言ってることって、やっぱり筋、通してるしね。(略)ちゃんとポリシーとして持ってらっしゃるし」
「僕が『なめられたくない』って言ったじゃないですか。形こそ違うけれど、イチローさんにもその気持ちがあるんですよ」
矢沢はそういった意地や気概を持っている人間は、苦しい状況でも踏ん張れる。だからイチローも本当に現役で50歳までプレーできると思うと語った。
まさかの涙……矢沢永吉の伝説ライブ
ところで矢沢が「50歳現役」を迎えた時には、こんな場面があった。
1999年9月15日、矢沢の50歳を記念して横浜総合競技場(現日産スタジアム)で行われた、スペシャルライブ「TONIGHT THE NIGHT~ありがとうが爆発する夜~」。このライブのアンコールで披露された『アイ・ラヴ・ユー、OK』の最中に涙を流して歌えなくなったしまったのだ。
矢沢は後のインタビューで振り返った際、「長くつらい道も おまえだけを支えに歩いてきた」という歌詞の"おまえ"が自分自身のように感じ、感極まったとしている。
果たしてイチローは矢沢のように「50歳現役」を本当に実現できるのだろうか。そしてそれを迎えた際、どのような心境を抱くのかにも注目したい。
(参考資料)
『イチロー×矢沢永吉 英雄の哲学』(ぴあ)
※イメージ画像はamazonよりイチロー×矢沢永吉 英雄の哲学