90年代を代表する漫画のひとつに江川達也の『まじかる☆タルるートくん』がある。自称大魔法使いのタルるートと、ちょっとドジでスケベな小学生である江戸城本丸を中心に展開されるギャグ漫画だ。
しかし、ギャグ一辺倒というわけではなく、ときおりバトル漫画も顔負けの死闘が繰り広げられることも多かった。

ギャグ回でもバトル回でも、主人公江戸城本丸の前には幾度となくライバルキャラが登場してきたが、中でも多くの読者を魅了してきたライバルキャラが原子電力会社の社長の息子である原子力(「はらこつとむ」)だ。

稀に見る秀才、華々しいコンテスト受賞歴がスゴい


「タルるートくん」の強烈ライバルキャラ・原子力は影の努力家だった
画像はAmazonより

原子力は小学5年生、齢11歳にして「世界Jr.」と名のつく数々のコンテストにおいて華々しい受賞歴を持っている。

いくつか挙げると「世界Jr.スキーチャンピオン」、「世界美少年カーニバル特別賞」、「ボクシング世界Jr.チャンピオン」(8年連続)、「世界Jr.ワールドサッカー選手権最優秀選手賞」、「全世界Jr.ビーチバレーチャンプ」など。まさに将来を嘱望される華々しさだ。

また、「つば吐き世界コンテスト優勝」、「世界死んだふりコンテスト優勝」、「世界Jr.ノミとりコンテスト優勝」など、およそ大半の人類にとってどうでもよさそうな賞まで手にした、40以上のコンテストで実績を残した天才である。

彼はなにかと本丸をライバル視していた。
「金持ち喧嘩せず」という諺があるが、諺も時と場合によるのだなと、この2人の関係を見て幼心に思ったものだ。

勝つための努力を惜しまない努力家


漫画では金持ちの息子というのは、大抵の場合性格が悪く書かれるものだ。原子力も例に漏れず、基本的に物語のなかでは嫌味さを漂わせる鼻につく行動が目立つことのほうが多かった。

しかし、本丸との勝負事となるとそんな嫌味なイメージから離れることも少なくなかった。序盤の物語では、原子は基本的に本丸に敗れているが、それは本丸がタルるートの魔法に頼っていた結果だ。

物語終盤まで原子力はタルるートが魔法使いだということを知らなかった。
だからこそ何の経歴も持たない普通の小学生である本丸に敗北し続けている事実が許せなかったのだろう。ボクシング対決前には実家の財力を使って世界ヘビー級王者を専属コーチとして招いたり、本丸との最終決戦前には必殺技を編み出すために最新鋭の科学力を利用したVR(仮想現実)高速回転特訓機で特訓したりと、そこまでやるかというほど凄まじく厳しい特訓を繰り返していた。影の努力家なのである。

本丸との最後の戦いでは、初めて本丸に勝利すると、嬉しさのあまり勝利後すぐに記念パレードを行ったほどだ。

『まじかる☆タルるートくん』には数々の個性的なキャラクターが登場してきたが、原子力ほど自己主張が強く、最初から最後まで強烈さを保てたキャラクターは他にいないだろう。ちなみに、同漫画が連載されていた頃の筆者は小学3年生、ふりがなをつける漢字テストにおいて、原子力に「はらこつとむ」と書いて×をもらう程度には彼に魅了されていた。


(空閑叉京/HEW)