WBCの視聴率が驚異的です。ビデオリサーチ社の調べによると、3月15日にテレビ朝日系で放送されたイスラエル戦の平均視聴率は27.4%で、瞬間最高視聴率は36.6%(関東地区)。

ちなみに、7日の第1ラウンド初戦は22.2%、12日の第2ラウンドのオランダ戦は視聴率25.2%と、ここまで右肩上がりの上昇を継続中。

決勝ラウンドからは日本時間で朝10時のプレイボールとなりますが、果たしてどれほどの数値を記録するのか、注目が集まります。

今ほど注目されるイベントではなかったWBC


さて、今でこそ国民的関心事となっているWBCですが、もともと、ここまで人気のあるイベントではありませんでした。

そもそもNPBは、MLB有利に利益配分がなされるこのプロジェクトへの参加に、難色を示していたことで有名。当初は出場さえ拒否していたものの、「失敗に終わったら損失分を補填しろ」と米側に脅されたために、しぶしぶエントリーしたという経緯があります。
それに、第2回大会があるかも定かではない第1回大会ゆえの手探り感や、松井秀喜、井口資仁など、当時活躍を期待されていた現役メジャーリーガーの相次ぐ出場辞退宣言も、イマイチ野球ファンがノリ切れない原因になっていたものです。

実際、2006年大会における1次リーグの視聴率は、台湾戦が20.3%で、韓国戦が18.5%と、土日のゴールデンタイムにも関わらず、今大会ほどの高視聴率ではありませんでした。

事件が起こった第2ラウンド初戦・日本ーアメリカ戦


こうしてフワッと始まった第1回WBCでしたが、ある出来事をきっかけとして、日本人の心に火が付きます。
それは忘れもしない、第2ラウンド初戦、日本vs米国でのことです。エンゼルスタジアムで行われたこの戦いは、ベースボールの本場・アメリカに対して、日本が善戦するという予想外の展開を見せます。

3ー3の同点で迎えた8回表。1アウト満塁のチャンスで打席に立ったのは、当時レイズに所属していた岩村明憲。ミートし損ねた打球はレフト方向へ。犠牲フライには浅い当たりです。

けれども、何としても1点が欲しい日本は、タッチアップを強行。三塁ランナーの西岡剛が激走します。左翼手の送球は逸れ、見事ホームイン!

遊撃手のデレク・ジーターら内野守備陣は、西岡の離塁が早かったと主張しましたが、2塁塁審は両手を広げて「セーフ」と判定。日本の勝ち越しは揺るがないはずでした。が、しかし…。

日本中を揺るがした「世紀の大誤審」


アメリカのマルティネス監督の抗議を受け入れ、なんと、球審のボブ・デービッドソンが、西岡のアウトを宣言したのです。騒然とする場内。唖然とする日本ベンチ。呆れ顔でデービッドソンに歩み寄る日本の王監督でしたが、判定は変わらず。
結局日本は9回裏、アメリカの勝ち越しを許し、サヨナラ負けを喫してしまったのです。

「野球のスタートした国であるアメリカで、そういうことがあってはいけないと、私は思います」

試合後の会見で王監督はこう語りました。こうして「ボブ・デービッドソン」の名は「世紀の大誤審」をした審判として、一躍、日本中に知れ渡ることとなったのです。

アメリカーメキシコ戦でも、疑惑の判定を連発


その後、第2戦でメキシコに勝利したものの、続く第3戦で韓国に敗れた日本。第2ラウンドにおける通算成績は、1勝2敗……。

決勝ラウンド進出は絶望的な状況でした。「あの判定さえなければ…」いよいよ、日本国内における、デービッドソン憎しの世論は高まります。けれども、この千両役者の見せ場はこれだけで終わりませんでした。

第2ラウンド最終戦となった、米国ーメキシコの一戦。この試合でも球審を務めていたデービッドソンは、またも、アメリカ有利の判定を連発。
この理不尽なジャッジに、メキシコ代表は奮起します。試合前に敗退がほぼ決まっていて、前日には練習をせずにディズニーワールドで遊んでいたというピクニック気分のナインは、疑惑の判定以降、“戦う集団”へと豹変。脅威の粘りを見せ、結果、1ー2でアメリカを撃破したのです。

これにより、アメリカは第2ラウンドで敗退。代わりに失点率の最も低かった日本が、決勝ラウンドへ進出することとなったのです。

去年、64歳で審判員を引退していたデービッドソン


デービッドソンによって勝ちを強奪された後に、デービッドソンによって幸運を賜った日本。メディアで幾度となくセンセーショナルに報じられた、この失望と歓喜の“デービッドソン劇場”が、私たち日本人をどれほどWBCへ熱中させるきっかけとなったのか、今考えると計り知れません。


その後、開催された準決勝・韓国戦の視聴率は36.2%、決勝・キューバ戦の視聴率は43.4%。どちらも日本ではお昼の時間帯、しかも、決勝に至っては平日の放送にも関わらず、驚異的な数値です。
この急激な視聴率上昇は、勝ち進む日本代表への期待感の表れであると同時に、ボブ・デービッドソンという起爆剤による影響であると見ることもできるのではないでしょうか。

あれから11年。去年には64歳でMLBの審判員を引退したボブ・デービッドソン。日本のWBC王座奪還まで残り2試合。
第1回大会は例の誤審のおかげで(?)ジェットコースターのようなスリリングな展開となり、それも今となっては良い思い出ですが、でも、彼のような球審には、二度とお目にかかりたくないものです。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonより2006 WORLD BASEBALL CLASSIC 日本代表 栄光への軌跡 [DVD]
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