個人的に、毎年プロ野球開幕時期に観たい映画ランキング心のベストテン第1位、『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』である。
映画とシンクロしていた現実のケビン・コスナー
99年アメリカ作品、マイケル・シャーラの原作小説をベースに、主演は泣く子も黙るケビン・コスナー。あのファンタジー溢れる野球映画の金字塔『フィールド・オブ・ドリームス』から10年後に作られた『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』はやけにリアルで切実だ。
なにせあのキング・オブ・イケメン俳優が、40歳の哀愁漂うベテラン投手ビリー・チャペルを演じるのである。
90年前半は全盛期バリバリだったコスナーも映画公開時には44歳。さすがに歳を取り、90年代後半は新世代のブラッド・ピットやレオナルド・ディカプリオにその座を奪われていた。80年代はスーパースター、だが悲しいけど俺も歳を取った。それでも、まだまだ若いものには負けないぞ。
いわば、この映画のビリー・チャペルと現実のケビン・コスナーが置かれた立場はかなりシンクロしていたのである。
映画の冒頭ではロッカールームでユニフォームに着替える際、コスナー演ずるビリー・チャペルが自らの弛んだ横っ腹を自嘲気味につまんでみせる。生え際の後退した髪に中年太り。
監督のサム・ライミはのちに『スパイダーマン』シリーズを手掛けて売れっ子になるが、当時は『死霊のはらわた』や『ダークマン』で知られるカルト作家。例え天下のケビン・コスナーでも容赦なく演出する。
それにより、この映画はいわゆるひとつのスポ根ヒーローモノとは一線を画す、ヒリヒリした雰囲気に仕上がっているわけだ。
「野球は堕落していません。輝いています」
デトロイト・タイガース在籍19年間で通算4100イニング投げた、名投手ビリー・チャペルはキャリア晩年を迎えたベテラン投手。長年の恋人ジェーン(ケリー・プレストン)とはすれ違いの日々で破局寸前、さらに追い打ちをかけるようにオーナーがシーズン終了後に球団を手放すことを明言した。
「名選手は誰もが美しく誇り高い。人に言われずとも引き際を見極める」
チャペルの元を訪ねて引退勧告する老オーナーは嘆くのだ。「昔は良かった。野球界のすべては堕落した」と。
いつの時代も過去の記憶とは、美化された嘘である。
「野球は堕落していません。輝いています」
ダメだ、野球ファンなら映画のこの冒頭シーンだけで泣けちまう。どんな名選手もやがて終わりが来る。そんなことは分かってる。
けど、せめて終わりの時期は自分で決めたいんだよ。正直、自慢の右腕はもうボロボロ。それでも、俺はこれまで100敗以上しようが何度負けても立ち上がってきた。
長年バッテリーを組む捕手ガス(ジョン・C・ライリー)に今日だけはマスクを被ってほしいと首脳陣に訴え、覚悟を決めて完全アウェーの敵地ヤンキースタジアムのマウンドに上がるチャペル。打席にはFAで自軍からヤンキースへ移籍した強打者バーチが立っている。
昔は無二の親友、今はライバルというメジャー版の桑田・清原みたいな関係性。何笑ってやがる気持ち悪いとマウンド上から毒づいたチャペルだったが、ふとこんな言葉を漏らす。
「老けたな、お互いに…」
名投手ビリー・チャペル、大記録達成なるか?
快投を続けるチャペルは、ベンチで傍らにあった白球にペンを走らせる。オーナーに託したあるメッセージだ(このメッセージの内容は実際に映画で確認してほしい)。
試合終盤、マウンドからスコアボードを見上げると、気が付けば7回まで完全試合。けど、余力はない。もうダメだ。そう諦めかけた時、女房役のガスから「俺たちが守ってやる!」なんつって魂の喝を入れられる。果たして、名投手ビリー・チャペルの大記録達成はなるのだろうか……?
それにしても、映画全編から感じるのはプロ野球選手という職業のタフさだ。なぜなら彼らは常に最高だった「過去の自分」と戦うハメになる。けど、同時にそれは「今」の肯定でもあるのだ。過去に生きずに今を生きる。
さあ、今シーズンも球場へ現代のビリー・チャペルたちに会いに行こう。
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『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』
日本公開日:2000年1月29日
監督:サム・ライミ 出演:ケビン・コスナー、ケリー・プレストン、ジョン・C・ライリー
キネマ懺悔ポイント:84点(100点満点)
主役のビリー・チャペルは19年目で8勝11敗のベテラン投手。ヒロインの恋人ジェーンはバツイチ子持ちととことんリアリティにごたわった設定に拍手!
(死亡遊戯)
※イメージ画像はamazonよりラブ オブ・ザ・ゲーム [DVD]