中居正広の初主演ドラマ『味いちもんめ』(テレビ朝日系)は、1995年~1996年にかけて放送された。

新人料理人の伊橋悟(中居)が、高級料亭「藤村」で修業する姿を描いた青春ドラマだ。
大黒摩季が歌う主題歌『ら・ら・ら』も大ヒットを記録した。厳しくも愛情あふれる先輩たちの中で成長してく伊橋の姿を描いた『味いちもんめ』は、年齢を問わず誰からも愛されるヒットドラマとなった。

ところが、厳しい先輩たちはドラマの中だけに存在するわけではなかった。『味いちもんめ』の撮影現場は、常に怒号が飛び交い修羅場の様相を呈していたという――。

中居正広 VS 芝居ファーストな人々


『味いちもんめ』に先輩板前役で出演していた柳沢慎吾や中居本人がのちに語ったところによると、撮影現場は異常な緊張感に包まれ、出演者や監督の怒鳴り声も絶えなかったそうだ。

当時22歳の中居は、ちょっとした振る舞いから言葉遣いまで、すべてが反抗的だった。
若気の至りというか、最後のツッパリ世代というか、とにかくとんがっていたようだ。長い前髪を、口から「フッ」と吹いた息でなびかせ、「チーッス」と言いながら現場に入ってくる。猫背で、歩き方からしてふてぶてしかった。

だが『味いちもんめ』には、そんな中居の役者としての態度を怒鳴り飛ばす、芝居ファーストな面々がそろっていた。

「バカヤロー!」「なんだコノヤロー!」ピリつく撮影現場


『味いちもんめ』の撮影現場には、とにかく熱い芝居野郎が集まっていた。

まず監督が厳しかった。ジャニースのアイドルだからという特別扱いはなく、「なに言ってんのかわかんねえよ!」などと厳しく演技を指導した。すると中居も「うるせーよコノヤロー!」と食って掛かった。
一触即発の状態で撮影は行われていた。

小林稔二(親方役)も演技に妥協を許さず怖かったという。布施博(先輩役)は、セットを投げつけてキレたこともあった。
中でも激しく中居と衝突したのが今井雅之(先輩役)だった。

今井雅之と中居は殴り合い寸前に


今井は、2015年に大腸がんで亡くなる直前まで舞台に立ち続けた、文字通り芝居に命をかけた役者だった。そんな今井と、若かった中居は当然ぶつかることとなる。

ふたりの初対面は、台本の読み合わせ稽古のときだった。例によって中居はブツブツと小声でセリフを読んでいた。たとえ稽古であっても腹から声を出すのが信条の今井は当然ブチギレ。
以降、中居とは口もきかなくなった。中居が挨拶をしても舌打ちをするだけだったそうだ。

胸ぐらをつかんでにらみ合うシーンでは、カットの声がかかっても今井と中居は視線をそらさず、つかみ合ったまま離れなかった。
スタッフが割って入らなければ殴り合いが始まってもおかしくなかったという。

中居はプロデューサーに、「今井さん、5話くらいで死んでもらえないかな?」と願い出たほどだった。

二人の関係が変わっていったのは撮影が3か月目に入ったころ。中居が「自分は将来MCをやりたい。トークで一流になりたい」など、腹を割って夢を語ったことによって、今井は中居のことを認めていく。その後は撮影の合間に二人で飲みに行くなど、兄弟のように信頼しあう仲になっていった。

『味いちもんめ』は、本編終了後に4回のスペシャルが放送されている。最後の放送は2013年5月だった。新作の放送が期待されるが、問題となるのはやはり今井雅之の代役だ。今井と中居の間にあった空気を再現することはかなり難しいだろう。

ハードルは高いかもしれないが、新作の放送を待ちたい。
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