家に届いた怪しい小包を開けると、中には重厚なケースひとつ。
パッケージでは、「日本で初めて生まれた本格的“野球”映画登場!」と大胆宣言。えっマジで? と突っ込む間もなく、パッケージ裏には「平凡なサラリーマンが、突然プロ野球のホームランバッターに!?」「往年の名プレーヤーと現役選手達が“野球のすばらしさ”を教えます!」の文字。
そしてビデオ本体には“レンタル落ち”“2週間200円”のシール……って、先週この連載で取り上げた91年の野球映画『ドラフト』と同じ系列の中古ビデオ屋じゃねえか。恐らく店が潰れてリサイクル業者に流れたものだろう。
ここ数年、近所でもレンタルDVD屋が2件姿を消した。動画配信は確かに便利だ。俺もAmazonビデオやhuluはよく利用する。
けど、レンタルショップで大量の映画ソフトに囲まれる、あの圧倒的な無力感が時々無性に懐かしくなる。いわゆるひとつの90年代ノスタルジア。
昭和41年巨人vs南海……ノスタルジック溢れる始まり方
映画『ドリーム・スタジアム』もそんなノスタルジック溢れる始まり方だ。
英文で「いつかどこかで夢を信じる人だけに送る野球のおとぎ話」というテロップ。そして、往年の長嶋茂雄や野村克也が対戦する昭和41年巨人vs南海の日本シリーズモノクロ映像でスタート。
主人公ダメサラリーマン田沼洋介(萩原聖人)は仕事を適当にこなし、「楽勝、楽勝、競技人口少ないし長野オリンピック確実なんだから」となぜかカーリングに燃えるアフターファイブ。その練習の休憩中に、テレビに映る日本ハムvsダイエー戦で客席に社内恋愛中の彼女と同僚男性の姿を見つけてしまう。
なんでや、思わず東京ドームへ走る洋介。外野席で彼女を見つけて駆け寄ろうとすると、おでこにダイエー吉永のホームランボールが直撃して気絶。その隙をついて、20数年前にドラフト1位で南海ホークスに入団しながら、開幕前日にバイク事故死した西山京太郎(池内博之)の魂が身体に入り込む。
後日、バッティングセンターでチンピラ(パンチ佐藤)に絡まれて150キロ設定の打席に立つことになった洋介は、西山の力を借りてホームランを連発するのだった。
細部ガバガバなストーリー展開
……と映画前半のあらすじを読んだだけで、脱力している人も多いと思う。あ、これダメだわと。ダメな邦画のパターンですやんと。いや絶望するのはまだ早い。その先に行こう。
ある日、洋介の務める会社に1本の電話が掛かってくる。声の主はホームランを連発したバッティングセンター経営者・朋江(桃井かおり)だ。
なんとのちに判明するが、野球を愛する朋江は悲運の元南海ドラ1西山京太郎の妹だったのである。「走れないし、守れない。でもDHでホームラン打ったら走る必要ないでしょ」なんつって強引にダイエーのテストに合格した洋介はプロ初打席でホームラン。
瞬く間にスター選手となり、マスコミやおネエちゃんに追いかけられる日々。ビデオジャーナリストの圭子(牧瀬里穂)も突撃取材に走るのだが、やがてスランプに陥った洋介は野球を辞めようと悩むことになる……。
ゴメン、やっぱりダメだった。正直、ストーリーは追えば追うほどキツイ。細部ガバガバである。
王貞治も登場! 野球好きにはたまらないシーンの連続
だが、この映画は野球好きにはたまらないシーンの連続だ。
なにせ、唐突に当時ダイエー監督の王貞治が登場。ダイエーホークスと名球会が全面協力し、あの金田正一や張本勲といった面々がまさに「喝!」レベルの棒読み演技も披露してくれている。
そして、朋江が思い出の地に作った球場では南海ホークスのユニフォーム姿の兄・京太郎と名球会の面々が野球をする。ここでそれ名作『フィールド・オブ・ドリームス』のパクリじゃねえかなんて突っ込みは野暮だろう。
悲運の事故でプレーできなかった兄が、数十年の時を越え、嬉しそうに同世代のおっちゃんになった元名選手たちと野球をする。はっきり言ってベタだ。死ぬほどベタだ。けど、このベタさが死ぬほど泣ける。一連のシーンだけで、この映画を観て良かったなと心から思えた。
エンドロールのあとは、総勢1774名に野球グッズプレゼント告知。えっ、1774名? 太っ腹すぎる。いったい何をくれるんだ?
まず「名球会メンバーのサイン入りグッズ25名」。おぉ欲しい。
恐らく、ビデオを観た応募者はかなりの高確率でTシャツが貰える夢のような映画だ。これぞ『ドリーム・スタジアム』である。
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『ドリーム・スタジアム』
映画公開日:97年6月21日
監督:大森一樹 出演:萩原聖人、牧瀬里穂、桃井かおり、池内博之
キネマ懺悔ポイント:37点(100点満点)
『走れ!イチロー』の大森監督のもと名球会選手が集結。萩原聖人が痩せすぎて野球選手には見えないという大きな突っ込みどころはあるものの、それを懐かしの牧瀬里穂が熱演でカバー。最初はその大げさな台詞回しに戸惑っても、映画中盤から「なんか可愛いな」と思わせる90年代牧瀬マジックを体感せよ!
(死亡遊戯)
※イメージ画像はamazonより【映画チラシ】ドリーム・スタジアム 大森一樹 萩原聖人 桃井かおり