80年代から90年代にかけて一大ブームとなったホラージャンルといえば、キョンシー映画もそのうちのひとつに数えられるだろう。ゾンビが歩きながら人に向かって襲いかかってくるのに対して、キョンシーは両手をまっすぐ前に伸ばした姿勢で飛び跳ねながらやってくるという点が斬新だった。
キョンシーにはゾンビとはまた違った恐怖を植え付けられた気がする。

キョンシーはゾンビより怖かった!霊幻道士に幽玄道士、テンテン…
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霊幻道士と幽玄道士


キョンシーは、85年に香港で製作され86年に日本でも公開された大ヒット映画『霊幻道士』に出てくる、人を食らう妖怪だ。ゾンビが腐敗した死体であるのに対して、キョンシーは腐敗していないというのが大きな違いだった。

同映画中でもっとも緊張感が走るのは、キョンシーから逃れるために息を止めるシーンである。キョンシーは目が見えないためこれは有効な手段なのだが、緊迫したシーンでは見ているこちらもついつい一緒になって息を止めてしまいがち。酸欠に陥る者が続出したのではないだろうか。

また、『霊幻道士』を元に台湾で製作された亜流のキョンシー映画『幽玄道士』も日本で人気を博した。
『霊幻道士』はホラーでありながらそこは香港映画、アクションに重きが置かれていたが、対する『幽玄道士』はホラーの中にも可愛らしさも持ち合わせていたという特徴があった。


日本でも大人気だったテンテン


日本でのキョンシーブームの火付け役となったのは、『幽玄道士』シリーズでヒロインであるテンテン役を演じたシャドウ・リュウだろう。弱冠7歳にしてキョンシーに立ち向かっていく勇姿に、ほぼ同年代の筆者は手に汗握って応援していた。

ホラーのなかにアクションやコメディ要素がうまくミックスされていたことで、子どもが楽しめる作品になっていたのも大きい。ただただ恐怖に陥れる他のホラー映画と違って、子どもながらに次の作品を望む数少ないホラー系映画だった。

シャドウ・リュウは中学卒業後に芸能界から退き、台湾の地元企業に就職したが、2000年に芸能界に復帰後は映画『着信アリ2』(2005年)、ドラマ『#ハッシュタグ』(2018年)などに出演するなど、実は日本でも活躍している。


2014年になり、ホラー要素を強めた映画『キョンシー』が公開されたことは記憶に新しいが、せっかくならまた、大きく成長したテンテンを主役としたキョンシー映画が見られる日がくることを心待ちにしている。

(空閑叉京/HEW)