SNSでのコミュニケーションについて教わる回のこと。
これを踏まえ、最後に総括を問われた滝沢カレンはこう答えた。
滝沢「友だち以外に連絡するな!」
そんなこと誰も言ってない。いま『ベーシック国語』では、「日本語暴れ馬」と「国語の神様」の絶妙のコンビネーションを見ることができる。

「国を丸め込んだNHK」
滝沢カレンがなぜ『ベーシック国語』の生徒役に抜擢されたのか。このキャスティングが発表されたときの滝沢カレンのインスタグラムを見てみよう。
「本日は、はたまたみなさまに大発表です」
「あの、国を丸め込んだNHKだけあり、なんせ大掛かりでやってんだろうと神経使ってるかもしれませんが、端っこながらでモゾモゾしているので、なんの圧迫感もなく観ていただけると思います」
「誰もが、なんの気の曲がりもなく、楽しく愉快に気難しさやけげんさを全く払い取り、国語といいつつ自由の感情を、いまここで脳にめいいっぱい詰め込み、楽しい一年間を送りましょう」
絶妙な距離感で間違っている日本語の数々。『全力!脱力タイムズ』(フジ)などバラエティに出演すれば必ず爪痕を残して帰っていく。『アメトーーク』(テレ朝)の「芸人ドラフト会議」(4月13日放送)でもチュートリアル徳井・ヒロミ・カズレーザーが「自分が理想とするバラエティ番組の出演者」として滝沢カレンを取り合った。
カズレーザー「何も無いところで横転事故を起こすような人。替えがきかない」
チュート徳井「笑いを取れる内容じゃないのに、しゃべってりゃ面白い。奇跡のエネルギーみたい」
まさに今一番旬なタイミングでの『ベーシック国語』抜擢なのだ。
さて、こんな自由な日本語を操る生徒には、どんな先生を割り当てたらよいだろうか。
一言一句厳しく直していく指導では萎縮してしまうし、滝沢カレン自体の味も殺してしまう。そこで番組が用意した布陣は、講師役に金田一秀穂。サポート役(オウムのぬいぐるみ)の声にナイツ土屋。この二人がとにかく優しいのだ。
ナイツ土屋がオウムになっている理由
オウムの声を担当するナイツ土屋は、番組初回に自身の役割として「カレンちゃんが何を言おうとしているのか、当てられる範囲内で頑張ってフォローしたい」と宣言している。例えば、滝沢カレンが出身について発言する場面。
滝沢「生まれたのはずっと日本ですよ。日本で生まれて今も日本に。
土屋「生まれも育ちも日本ってことかな」
滝沢「そうです。ホントにそう」
「気持ち残りです」と言えば「心残りね」、「SNSに書き物をしています」と言えば「投稿してるってことだよね」という具合に、スッと合いの手を入れてくれる。ヤホー漫才で言い間違いを訂正してきたスキルが、滝沢カレン相手に存分に活かされている。
オウムの姿をしているのもポイント。教室のセットに、先生と生徒以外の人物がいると役割がよくわからなくなるからだ(常に授業参観みたいになる)。オウムに姿を変え、滝沢カレンのフォローもしつつ、金田一先生に的確な質問を投げる。抜群のフォロー体制ができている。
金田一先生の「まず肯定」する授業
しかし、ナイツ土屋にも拾えなかった滝沢カレン発言があった。「漢字の読み・意味」の回。「修繕」の読み方を教えるために、金田一先生が「繕の右側の部分、これの意味わかる?」と訊く。滝沢カレンの返答は「お盆……?」だった。
善がお盆……? と普通なら意味が分からない。
滝沢カレンは全く日本語ができないわけではない。「蜘蛛の糸」をきちんと「くものいと」と読めたり、丁寧すぎる言い回しをしたり、国語の能力にムラがある。ナイツ土屋の訂正力に加え、金田一先生の確かな国語力がフォロー体制に厚みを与える。
加えて、金田一先生の授業は必ず最初に「肯定」する。たどたどしい音読も「一生懸命に読んでいるのはわかりました。いいと思いますよ」と受けるし、「違う」「そうじゃない」という否定の言葉から入らない。まず肯定して相手を受け入れた上で、自分が伝えたいことを伝えていく。
番組初回、オウムに「どうですか?カレンちゃんの国語力は」と問われた金田一先生は、こうコメントする。
「本当に心から思っている日本語を、そのまんま素直に出している。それはとってもいいことだと思いますよ」
自分の想いを正確に言葉にするのは、本来なら誰にとっても難しいこと。ぼんやりした想いを、言葉という有限なものでサンプリングしないといけない。
NHK高校講座『ベーシック国語』(Eテレ)は毎週火曜日14:00から放送。教材として扱われているため番組HPでいつでも視聴可能だ。予定されている講座は全40回。暖かな雰囲気の中、滝沢カレンの日本語はどう変わっていくのか。はたまた全く変わらないのか。どっちに転んでも見たくなるのがニクい。
(井上マサキ)