
『夜行観覧車』『Nのために』に続き、湊かなえ原作+TBS金曜10時ときたら、まず間違いないと思われたドラマ『リバース』。
ところが、実際に観てみると、期待以上。
なかでも、藤原竜也演じる、間が悪く、地味でサエない深瀬和久は絶品だ。
一般的にドラマが破綻する要素の1つに、「キャラクターがぶれること」がある。主人公をはじめとした、メインキャラの言動に一貫性がないと、どうしても物語全体の説得力がなくなってしまうからだ。
逆に、大きな物語がなく、何も起こらなくとも、キャラクターの描き込みが緻密で一貫性があれば、良作になるケースも多々ある。
その点、藤原竜也の「深瀬」は、完璧だ。いかに完璧な深瀬なのか、以下に振り返ってみたい。
見た目が完璧に「深瀬」
服装がことごとく絶妙に「深瀬」感を出している。ネット上には「ダサ可愛い」という声も多数あるが、よく着用しているボーダーやノルディック柄のニットにしても、ともすればオシャレになりかねないが、ボーダー幅や柄の色合わせが絶妙にダサい。
また、同じアイテムでも着こなしによってはかっこよくなりかねないのに、サイズ感がジャストなのが素晴らしい。
しかも、ニットの下にはきちんとボタンを上までとめてシャツを着ている。
オーバーサイズをゆるっと着てみるなんてこと、深瀬はしないし、袖をまくってみたり、抜き感を出してみたり、絶対にしない。だって、オーバーサイズやゆるっとした着こなしは、深瀬にとって「落ち着かない」「気持ちが悪い」ものだろうから。
仕草が完璧に「深瀬」
喋り方がオドオドしていたり、噛んだりするのは序の口。
座るときに鞄を両手で胸に抱えていたり、やや内股だったりする奥ゆかしさも、「深瀬」らしい。
オフィスでコートを先輩や同僚が脱がせてくれたシーンでは、そのまま接客に行くが、ベストがズレていた。コートを脱がされる際に引っ張られてズレたベストに気づかず、そのままの深瀬。
上着を脱いで下に着ていたものがズレるなんてことは、日常の光景ではよく見るものだが、ドラマや映画の中で見ることはめったにない。芸が細かすぎる。
言動・思考が「深瀬」
地味グループにいながら、勉強は頑張ってきたことは、原作通り。また、小中高時代などの写真では「見切れている」ことが多かったこと。
道でおばあちゃんが小銭をバラまいてしまったときに、みんなが見て見ぬフリするなか、ひとつずつ拾ってあげていたこと。
また、地味で存在感が薄く、おとなしい性格ではあるが、かといって、適当に合わせたり流されたりはしていない。だからこそ、浅見康介(玉森裕太)の高校のサッカー部員たちの飲酒事件の目撃者として、部員の保護者から偽の証言を頼まれ、好条件の転職先の紹介などをチラつかされても、決して偽証はしない。「深瀬」だからこそ、その安心感は、絶大だ。
かといって、保護者の頼みをその場でキッパリ断れるほど強くもないし、「ビールだったかそうでなかったかはわからない。真実を知っているのは本人たちだけ」と言う。そして、ここで熱い説教でも始めようものなら、全くの別人になってしまい、台無しだが、深瀬は自らの過去への悔いから「本当にそれ(ビールじゃなかったという答え)で良いのか」と高校生たちに問う。その正直さも、本当に「深瀬」らしい。
そして、視聴者は「ああ、深瀬だったら、友達を裏切ることなんてしない」と確信して見ているし、「深瀬だったら、やっぱりそう言うな」と、いちいち頷く。
半年間毎朝見続ける朝ドラならともかく、1クールのドラマで、ここまでキャラクターが全ての視聴者に理解されるケースは少ないのではないだろうか。
『逃げ恥~』のみくりちゃんや平匡さんは多くの視聴者に愛されたけれど、彼らの言動や思考回路を視聴者が完全に理解はできない。
『カルテット』の4人組も熱狂的ファンを多数獲得したけれど、それぞれに謎だらけだ。
その点、「深瀬」はこの短い付き合いの中で、ありえないほどに全視聴者の理解・共感を味方につけている。
『リバース』は、メインにある重大なミステリーとは別に、実は裏テーマとして、勇気を出したり、友人を獲得したりという、深瀬の成長物語がある気もする。
演じる役者さんはもちろんのこと、脚本家、演出家、スタイリスト、すべての人の深い理解の上でブレずに生きているキャラ「深瀬和久」。その成長物語からも、目が離せない。
(田幸和歌子)