
昨今、会社員が仕事上のストレスから、抑うつ状態になる傾向があることで問題になっている。それは、普段の食生活によっても変わってくるようだ。
日本の典型的な食品とご飯少なめで抑うつ症状が少ない結果に
国立国際医療研究センター疫学・予防研究部が、平成24年度および平成25年度に行った栄養疫学調査では、関東地方のある企業の従業員2006人のうち、「野菜や果物、日本の典型的な食品(きのこ、海藻、大豆製品、緑茶)に特徴づけられる食事パターンのスコアの高い人ほど、抑うつ症状が少ない」ことがわかったという。
この結果はなかなか興味深い。「野菜・果物・日本の典型的な食品が特徴の食事パターン」とは、もっと具体的にいえばどんな食事なのか、研究を行った公衆衛生学修士の三木貴子さんより、次のような回答があった。
「本研究では、過去一カ月間の食事について質問票で尋ね、52項目の食品及び飲料の摂取量について、縮小ランク回帰という手法を用いて食事パターンを抽出しました」
●抑うつ症状の少ない傾向のある人の食事パターンの特徴
1.次の食品の高摂取
「色の濃い葉野菜、キャベツ・白菜、にんじん・かぼちゃ、きのこ、生野菜(レタス・キャベツ)、とうふ・厚揚げ、だいこん・かぶ、海藻、トマト、納豆、緑茶、いも、骨ごと食べる魚、柑橘類、その他の果物など」
2.「ご飯」の低摂取
「この食事パターンのスコアの高い人(この食事パターンの傾向が強い人)は、国内外で抑うつ症状低下との関連が報告されている栄養素『葉酸、ビタミンC、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉄』の摂取量が多く、抑うつ症状が少ない傾向が見られました」
6つの栄養素の複合効果で抑うつ症状が低下した可能性
確かに典型的な日本食は、健康にいいイメージがある。しかし、それらの栄養素が抑うつ状態と関係があるとは不思議なものである。これらの栄養素は、抑うつ症状とどう関係しているのだろうか?
「『葉酸、ビタミンC、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉄』の栄養素が脳機能の維持に働くメカニズムとして、神経伝達物質の合成や、神経毒性作用*のある『ホモシステイン』という物質の低下、活性酸素の抑制などが考えられています。
本研究では、この6つの栄養素の複合効果により、抑うつ症状が低下した可能性があります」
*神経毒性作用:神経細胞にダメージを引き起こす作用のこと
「本研究結果は、ある一時点での調査である“横断研究”によるものであり、本研究で抽出した食事パターンの結果、抑うつ症状が低下したのか、それとも、抑うつ症状の結果として、食事パターンのスコアが低下したのか時間的な前後関係が明らかではありません。
そのため、今後、本研究で抽出した食事パターンのスコアの違いによって、その後の抑うつ症状の発症に影響があるかどうか“前向きコホート研究”という手法を用いて検証していく必要があります」
昔から、日本の典型的な食事は“いい”とはいわれているものの、何がいいのか分からないところがあった。その一つの答えとして、抑うつ状態を防ぐ栄養素が含まれている可能性があることが見出された。
(石原亜香利)
●参照元データ
縮小ランク回帰による食事パターンと抑うつ症状の関連―断面調査の結果から―
http://ccs.ncgm.go.jp/010/020/20160229152801.html
(プロフィール)
公衆衛生学修士 三木 貴子さん
日本学術振興会特別研究員
東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野 博士後期課程
国立国際医療研究センター臨床研究センター疫学・予防研究部研究生