近年のドラマではチョイ役が多い赤井英和。
『半沢直樹』で演じた大阪の町工場のおっさん役が、久しぶりに見た「いかにもなハマり役」だろうか。


赤井主演の90年代ドラマが好きだった筆者にとってはさびしい限りである。真っ先に思い出されるのは野島伸司脚本作品であるが、なぜか標準語で取り組んだ異色のドラマもまた思い返さずにはいられないのである。

ケンカ三昧の生活からボクシングで更生した赤井少年


赤井英和は大阪の西成出身。家の前でたびたび暴動が繰り広げられるなど、アウトロー最前線な環境だったそうだ。

刺激的すぎる毎日は、赤井少年をたくましく育て上げた。売られたケンカは必ず買う中学時代を経て、高校時代には仲間とともに「世直し軍団」と称して、地元のヤンキーを片っ端からシメていったとか。
近年では「知り合い同士でじゃれあっていただけ」と本人が語ることもあるが、そんな生易しいものとは到底思えない所業である。

ケンカ漬けの生活から足を洗ったのは、高2の時。入学以来取り組んで来たボクシングの国体で有名選手に勝利。雑誌に「無名の赤井が勝つ」と記事が掲載されことがきっかけだと言う。
ヤンキー時代もケンカで名を上げることにこだわっていたようなので、有名になることに人一倍執着があったのだろうか。

ともかく、以降は本腰を入れてボクシングに取り組んだ赤井。インターハイ優勝などの輝かしい実績を引っさげてプロに転向。
全日本新人王を獲得、当時の日本記録であるデビュー以来12試合連続ノックアウト勝ちなど、数々の快挙を達成し、世界を狙えるボクサーとして期待を集めたのだが……。

生死の境をさまよってボクシング引退、俳優業へ


世界タイトル目前にして壮絶なKO負けを喫し、意識不明の重体となってしまう。搬送時生存率20%、手術後生存率50%と極めて重篤な状態だった。

無事に回復はしたが、ボクシングは断念することに。そして、俳優の道を歩むことになる。
デビュー作は88年の『またまたあぶない刑事』。用心棒役でボクシングを披露しているが、クレジットはボクサー時代の愛称が先に来る「浪速のロッキー(赤井英和)」表記であり、ユージ役の柴田恭兵に「スタローンに演技教えてやんな!」とアドリブっぽくイジられたりと、プレデビューといった感じのチョイ役であった。

しかしブレイクは意外と早かった。翌89年、自身の半生を振り返った自伝『どついたるねん』が同名映画化され、そこで赤井自身が本人役をひたむきに演じたことが大評判となったのだ。
際立つ存在感が買われ、いきなり表舞台に立つことになった赤井だが、その躍進の牽引役はやはり野島伸司脚本の衝撃作だろう。

TBSの主演ドラマで当たり役を連発


93年の『高校教師』、94年の『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』と連続で起用された赤井。特に『人間失格』は連続ドラマ初主演作だったが、息子をイジメで失った父親の無念と復讐への葛藤を迫真の演技で魅せてくれた。
俳優人生の中でも1番の当たり役だろう。赤井のイメージを「真っ直ぐで情に厚い熱血漢」としたのも、このドラマからだ。


続く95年の『セカンド・チャンス』でも田中美佐子とのW主演を果たしているが、ここまですべてTBS系。「ドラマのTBS」と言われていた時代に多くの主演を張れたことは大きな財産に違いない。

もちろん、他局でも主演・助演と大活躍しているのだが、この頃の赤井が演じるキャラクターに共通するのは前述のイメージにプラスして「ピュアで不器用」であること。そして大前提として「ネイティブな関西弁をしゃべる」ことである。

シリアスなシーンが台無し! 不釣合いな標準語ドラマ


パブリックイメージが確立した赤井にとってイレギュラーな作品と言えば、98年のTBS系『略奪愛・アブない女』である。
妻の妹に迫られ、禁断の関係を持ってしまったことから泥沼にハマってゆく主人公を演じたのだが、その主人公は精神科医役。申し訳ないが、イメージが欠片も合わない。

それどころか、その妻の妹役である鈴木紗理奈とともに、このドラマではセリフがすべて標準語なのだ。
不慣れな標準語、しかも関西弁よりのイントネーションが醸し出す独特のカタコト感。シリアスな修羅場のシーンもコメディにしか見えないのである。なぜ、関西弁の代表格とも言えるこの2人を起用したのだろうか?

エンディングテーマはGLAYの『HOWEVER』だったが、こちらもなぜかリリースから5ヶ月遅れのタイアップ。しかも、歌詞との親和性も皆無。

制作側の意図が知りたい謎だらけのドラマであった。

「やめるんだ、鈴ちゃん!」「アニキ!アニキ~!」の掛け合いはもはや伝説。
この後、赤井がドラマの主演を務めることはほぼなくなった。このドラマの悪評のせいではないと願いたいが、果たして……。

※イメージ画像はamazonよりどついたるねん デラックス版 [DVD]
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