2010年代の朝ドラを中心に、いつものレビューとはまた違った切り口で朝ドラ論を展開した上に、制作者インタビューまで収録。
しかし、毎朝、朝ドラレビューを楽しみにしている人ならば一度は思ったことがあるんじゃないでしょうか。
「毎日毎日レビューを書くって、どんな生活してんだろ、この人!?」
その辺を深掘りして聞いてきました。(全三回予定の一回目)

『あまちゃん』のおかげで健康的になった!
───もともとは子供の頃、おじいさん、おばあさんたちが朝ドラを見ているのを一緒に見ていたそうですけど、一番印象に残っている作品は何ですか?
木俣 当時は、自主的に見たいと思って見ていたわけではなくて、おばあちゃんがご飯を作っている時につけているのを、ボンヤリと見ていたという感じでしたね。
その中で、一番インパクトがあったのはやっぱり『おしん』(第31作・1983年)なんですよ。世の中的に騒がれていたので、テレビ以外の場所でも何かと特集されていたりして目にしていたからだと思いますが。主人公の女の子がかわいいとか、田中裕子ってヒロインにしては地味に見えるけど、存在感がスゴイとか(笑)。
───それでは、意識して自主的に見はじめた朝ドラは?
木俣 ご多分に漏れず『あまちゃん』(第88作・2013年前期)です。『ちゅらさん』(第64作・2001年前期)や『カーネーション』(第85作・2011年後期)なんかも見ていましたけど、リアルタイムに毎朝欠かさず見るっていうほどではなくて。毎朝毎朝ちゃんと見るようになったのは『あまちゃん』ですね。
それまで「朝ドラを見るなんて、守りに入っている感じがして……」と、勝手にカテゴライズしていたんです。
もちろん、仕事柄見ないといけないから「朝ドラについて何か書いて」と言われたら、ある程度書けるくらいには見ていたけど、ものすごく大好きで「これがなくてはいられない!」「これを世の中に伝えたい!」と思ったのは『あまちゃん』がはじめてでした。
───『あまちゃん』に関してはやはり脚本が宮藤官九郎さんだというのが大きかった?
木俣 そうだと思います。
───第1週の段階では、まだ大した事件は起こっていないですよね?
木俣 第1週は宮藤さんの味がまだ控えめで、いわゆる従来の朝ドラっぽい雰囲気でしたね。宮藤さんの味がガッと出てくるのは2週、3週からだったんですけど、でも1話を見た段階で「何かが違う!」とは思いました。
───朝ドラを毎週レビューするって、生活リズムも変わるんじゃないですか?
木俣 そうですね、おかげで朝起きるようになりましたよ。
最初は朝8時の放送を見ていたんですけど、みんな「早あま」(7時半からのBSでの放送)で見ているから悔しくなって、私も7時半から見るようにして(笑)。こういう仕事をやっているんで、さすがに7時半に起きるのは苦労しましたけど……。
『あまちゃん』の半年間は、すごく健康的だった気がしますね。
───『あまちゃん』はTwitterなどのSNSもすごく盛り上がっていて、リアルタイムで見るのがメチャクチャ楽しかったですよね。
木俣 SNSと朝ドラの相性はすごくいいと思います。自分が感じたことと同じことをつぶやいている人もいるし、いち早くツッコミを入れることに喜びを感じている人もいるし。
朝ドラについてTwitterでつぶつやくことを心の支えにしている人が沢山いるんだなと。

東京都生まれ。フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。エキレビ!名物「朝ドラ各話レビュー」をきょうも連載中(いまは「ひよっこ」)
なぜ問題作『まれ』で毎日レビューを!?
───あまちゃんの毎週レビューを完走しましたが、後番組の『ごちそうさん』(第89作・2013年後期)ではレビューを書いていないんですよね。
木俣 『あまちゃん』が終わって、わりと満足しちゃったんですよね。レビューを本にまとめてもらえたりもして、ドラマレビューの面白い形を作ることができたのかなって。
だから「次もやるぞ!」という気持ちにはならなかったんです。今思えば、やらなかった方が不思議ですけど。『花子とアン』(第90作・2014年前期)は書いたものの途中で挫折して……。
───そして『まれ』(第92作・2015年前期)で再び朝ドラレビューを……しかも毎日やりはじめるわけですが、なぜ『まれ』だったのかと。
木俣 うーん……ある意味面白かったですよね。『まれ』を毎日書いたというのは(笑)。
───前評判で何かを感じ取って「毎日やろう!」と思ったんですか?
木俣 『あまちゃん』の後、『ごちそうさん』『花子とアン』『マッサン』(第91作・2014年後期)と、しばらく朝ドラレビューをやっていなかったんですけど、その間に、ネット上でドラマの毎週レビューが流行ってきたんですよ。『あまちゃん』でSNSが盛り上がっているので、「ドラマレビューはアクセスが取れる!」みたいな雰囲気になって。
どこを見ても毎週レビューをやっているから「だったら毎日だ!」……ということで、「エキレビ!」編集長のアライさんに相談したら英断してくれて。
だから、時期的にたまたま『まれ』だったんです。
───ネットを中心に、よくも悪くも話題となった作品なので、レビューするのも大変だったんじゃないですか?
木俣 私、土屋太鳳ちゃんは好きだったからなぁ……。脚本の篠崎絵里子さんの作品も嫌いじゃないですし。すごく素敵な話もちょこちょこあって、一生懸命応援したいなと思っていたんですけど。
───苦労して『まれ』を完走して、普通だったらしばらくお休みしそうなもんですが、そのまま『あさが来た』(第93作・2015年下期)の毎日レビューに突入しましたよね。
木俣 『まれ』にも好きなところは沢山あったので、こう言っちゃうと申し訳ないんですが、私がドラマレビューを書くのは、脚本の面白さを解き明かして、作家さんの才能がどこにあるのかを見ていきたいからなんですね。
たとえば、『あまちゃん』で毎日レビューをやっていたら毎日毎日驚きがあって、「ここちょっとおかしくない?」みたいなツッコミを入れる余地がない、「参りました!」と思わされるようなレビューを書けていたと思うんですよ。
『まれ』の場合は、はじめてオリジナルの長い連続ドラマを手がけたということで、才能のある若い作家さんも、どこかでつまずきがあったんだなと思わせる部分があって。
「こんなに物事が簡単に進むことはないでしょ?」とか「もうちょっと一生懸命仕事をしているシーンを描いて欲しかったな」という気持ちが……。
『あさが来た』は大森美香さんが書かれるというので、「これはすごいのを書いてくるに違いない、今度こそ毎日毎日圧倒されたい!」ということで毎日レビューを続行したんです。
朝ドラって楽しく見て、一日がんばろうって思うのが基本だから、そこで朝からモヤモヤしちゃうと寂しいじゃないですか。
元気になれるような作品を見せてもらって、もらったその元気でレビューを書くということがやりたいですよね。
ただがレビュー、されどレビュー!
───『あさが来た』の毎日レビューまではまだ分かるんですけど、さらに並行して昼ドラ『新・牡丹と薔薇』(フジテレビ系・2015年)の毎日レビューまではじめちゃって、「毎日2本って、どうしちゃったんだこの人は!」と思いました。
木俣 『まれ』で毎日レビューをはじめて、『あさが来た』では脚本に圧倒されるようなレビューが書け、すごく満足したんですけど、毎日レビューっていうのはもうやっちゃったし……。
「自分に負荷をかけないと」という気持ちが常にあるんですね。
結局、ドラマレビューっていうのは頂き物であって、自分の創作ではないじゃないですか。あらすじと、素敵なセリフ、あとはいかにこの作品が素晴らしいということを書いているだけなので、そこに関しては常に申し訳ない気持ちでいるんですよ。
そういう気持ちがあるから、自分はもっとがんばらなきゃいけないという強迫観念が。
時々「テレビを見るだけでお金もらいやがって」なんて言ってくる人がいるじゃないですか。確かに、そういうライターさんもいると思いますけど(笑)、「テレビ見て書くのも大変なんだよ!」って。そこで、毎日2本なんです(笑)。
───修行ですね、もう。「エキレビ!」読者だけでなく、ライター陣も「毎日2本って、どういう生活をしているんだ!?」とビビッてますよ。
木俣 放送は、なるべくリアルタイムで見たいですけど、もちろん他の仕事もあったりするんで、録画機能やNHKオンデマンドなどを駆使して、あらゆる時間に見ています。
私は、映画の現場取材で毎日朝から晩までいなくちゃならないようなこともあるんですよ。そういう時は携帯でオンデマンドを見て、休みの時間に下書きを書いて、夜に家に帰ってから清書したりとか。すごくつらい時期もありましたよ。
───『あさが来た』『とと姉ちゃん』(第94作・2016年前期)『べっぴんさん』(第95作・2016年後期)『ひよっこ』(第96作・2017年前期)と毎日レビューが続いていますが、これはいつまで続ける予定なんですか?
木俣 意外と生活に根付いて楽しくなってしまったので、死ぬまで朝ドラレビューを書いて「木俣冬という人は、朝ドラ第何作の第何話のレビューを書いて死んだ」とWikipediaに書かれたいというのがささやかな目標です(笑)。
───レビューが載らなくなったら死んだということなんですね……。
木俣 できれば、最終回のレビューを書き上げたところで事切れたとか言われたいですね。
───作家さんにはそういう伝説の残っている人もいそうですけど、それをレビューでやりたいと。
木俣 たかがレビュー、されどレビューですよ!
その2に続く(全3回)
(北村ヂン)