WBCの侍ジャパンに密着したドキュメント映画『あの日、侍がいたグラウンド』が好評だ。

7月1日から7日までの1週間限定上映ながらも、都内の映画館では連日満員御礼が続いた。

ブルペンで先輩の投球を見学する若手投手が「球の回転がめっちゃ綺麗!」と驚愕するシーンや試合直前のベンチ裏での会話風景等、舞台裏の秘蔵映像が満載。

当然、観客は観る前から日本代表の準決勝敗退という結末を知っている。しかも優勝のハッピーエンドではなく、ある意味バッドエンドだ。いわば、究極のネタバレを承知の上で、野球ファンは劇場へと足を運んだわけだ。

野球に限らず何かを応援するという行為は、そのジャンルに興味のない人からは得てして理解されにくい。なぜそこまで熱心に? 自分がプレーするわけでもなければ、肉親や友達が試合に出ているわけでもないのに。
そんな不思議なファン心理を描写した映画が今回紹介する『ヘッド・ロックGO!GO! アメリカン・プロレス』である。

唯一の楽しみは「プロレス」だった……


……いやすいません、タイトルだけで引かないでほしい。

2000年のアメリカ作品。音楽が懐かしのバンドLitの『My Own Worst Enemy』という選曲に時代を感じさせる映画冒頭だが、田舎町のうだつの上がらない親友同士、ゴーディーとショーンは排水処理業務の同僚でもある。
ショーンは警察官の父親にビビりながら、いまだ実家暮らしの童貞(門限は23時)。ゴーディーも街の寂れたハンバーガーショップで腹を満たす日々。

そんな2人の唯一の楽しみは「プロレス」だった。
プロレス好きなら誰もが経験のあるはずの「プロレスなんてくだらん」という心ない周囲の視線にも負けずに、WBCじゃなくて……WCWチャンピオン、ジミー・キングの熱狂的ファンなのである。

だがある日、観戦に行った試合でプロモーターの陰謀でボコボコに殴られ王者陥落。2人は帰りの車中で泣きながら「俺らがジミー・キングを救う」と決意する。

2人が出した答えとは?


でも一体どうやって? 出した答えはヒッチハイクでキングに会いに行くことだった。
日常生活では決して街から出ようとしないダメ人間2人組が、遠くアトランタを目指すわけだ。もうこの時点で、死ぬほど遠出が嫌いなのに野球遠征だけは別という俺は感情移入度が半端ない。

ボロボロの家で女装姿で酔っ払うキング。「プロレスはショーだ、王者になったことなんて一度もない。演じて来たのさ」なんて卑屈に吐き捨てるも、ゴーディーとショーンは「俺たちにはキングが必要なんだ」と説得。2人に背中を押されたキングは試合会場に乗り込み、プロモーターとは、現王者と金網デスマッチで勝ったらチャンピオンの座と報酬100万ドル、負けたらレスラー資格剥奪で追放という約束を交わす。

そして往年の名レスラー、サル・バンディーニの元でレスリングの修行に励むわけだ。果たして、キングの運命は? 懸命にサポートするゴーディーとショーンは?

半端なく豪華な出演レスラー陣


それにしても出演レスラー陣が半端なく豪華だ。

WCWの当時のスーパースター、ビル・ゴールドバーグやスティングといった面々はもちろん、日本のプロレスファンにはおなじみの故クラッシャー・バンバン・ビガロの勇姿も見ることができる。

終盤のプロモーターの「俺がプロレスを育てたんだぞ」発言と、リングサイドの「勘違いするな、ファンあってのプロレスだぞ」というやり取りは、まるでどこかの国のプロ野球チームのオーナーと選手会長のような会話である。


「応援する」という行為は"一途の愛"


劇中、最も印象深いのは落ちぶれたキングに対して、ゴーディーとショーンが「今こそ、彼を助けなきゃ」と決意を固めるシーンだ。
応援する対象が落ち目の時ほど感じる、何だかよく分からない使命感。こんな時こそ、自分は逃げずに最後まで付き合うよというブレないスタンス。何かを応援するという行為は、そこに見返りを求めた瞬間に破綻するだろう。

そう、プロレスでもプロ野球でもアイドルでも、何かを応援するというのは基本的に一途の愛である。
同時に前提として、両者に暗黙の了解と一種の信頼関係がなければ成立しない。愛情とストーカー行為は紙一重というのは、常に頭の片隅に置いておきたいものである。

周りに引かれるくらい何かの応援に夢中になったことがある人なら間違いなく共感できる一本。『ヘッド・ロックGO!GO! アメリカン・プロレス』は究極の「プロレス、愛してま~す!」映画と言えるだろう。


『ヘッド・ロックGO!GO! アメリカン・プロレス』
制作 :2000年(日本未公開)
監督:ブライアン・ロビンス 出演:デヴィッド・アークエット、オリヴァー・プラット、スコット・カーン

キネマ懺悔ポイント:52点(100点満点)
オープニングのアメリカン・プロレスの歴史紹介と、金的蹴りカットを延々と繋ぎ合わせるエンディングのNGシーン集も見逃すな!
(死亡遊戯)


※文中の画像はamazonよりReady to Rumble
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