高田郁原作の土曜時代ドラマ『みをつくし料理帖』。江戸の小料理屋を舞台に、料理に賭ける天涯孤独の少女の姿を描いた物語だ。
なんと本日最終回! うーん、もっと見たい……(原作は朝ドラになるぐらいボリュームがあるのです)。
本日最終回「みをつくし料理帖」7話。黒木華の鱧の骨切りがドラマを動かす
原作3巻

澪をめぐって三角関係? 澪が本当に好きなのは……


先週放送の第7話は、澪(黒木華)と小松原(森山未來)、そして永田源斉(永山絢斗)のぎこちない三角関係からスタート。小松原と源斉がお互い意識しまくりなのがなんだかおかしい。視線すら交わさない。

澪の想い人は小松原のほう。小松原は何度も澪に人生の指針になるような言葉を与えてくれた。やっぱりそういう人に惹かれてしまうものなのかもね。源斉は澪が小松原からもらった手ぬぐいを大事そうに持っているところを見て、澪の気持ちを察してしまう。源斉がほんの少しため息をつくところでタイトル。さりげないけど粋なオープニングだ。

澪の心配事は、生き別れの幼馴染みで吉原一の花魁、あさひ太夫(成海璃子)が刃傷沙汰に巻き込まれて大怪我を負ってしまったこと。隔絶された空間の吉原に澪が見舞いに行けるわけもなく、ただ遠くから無事を願うのみ。

夜道で月にむかって指で狐の形をつくり、「涙はこんこん」と唱える澪。
これは幼い頃、澪が野江(あさひ太夫)に「涙はあっち行け」と唱えてもらった言葉だった。

「私には、こうして願うことしかできません。野江ちゃんが泣いてませんように、って」

澪の話を聞いて、無言でうなずくご寮さん(安田成美)。きっとご寮さんも生き別れの息子・佐兵衛(柳下大)の無事を願っている。

再び狐の形をした指を月にかざす澪。『みをつくし料理帖』は1話あたり正味35分程度なのでかなり短く感じることもあるのだが、こういう情感をたたえたシーンにはたっぷり時間を割く。原作が長い分、ダイジェスト的になってもおかしくないのに、けっしてそうはなってないのは、脚本の藤本有紀、演出の柴田岳志の手腕なのだろう。

取扱注意の夏の味・鱧(はも)


関西の夏の味といえば鱧(はも)。怪我を負ったあさひ太夫に食べさせるため、吉原の「翁屋」に生きの良い鱧が運び込まれてきた。しかし、料理番の又次(萩原聖人)は鱧を調理しようとして指を噛まれてしまう。鱧には鋭い歯があり、取扱いには大変な注意が必要なのだ(よく噛み付くところから「食む=はむ」が転じて「はも」になったという説もある)。

鱧は江戸の料理人には手に負えない。そこであさひ太夫の治療のために翁屋に出入りしていた源斉は、大坂で料理の修業をしていた澪を連れてくる。
しかし、そこに立ちはだかったのが翁屋の主人・伝右衛門(伊武雅刀)。伝右衛門は澪にこう言い放つ。

「女の料理はあくまで所帯の賄い。板場に女が入るなど、とんでもないことですよ。月の障りのあるような手でつくられたものなど、銭払ってまで食いたいと思わない」

澪が「つる家」で料理を出し始めた頃、客たちに「女がつくる料理なんて」と罵られていたことがあった。手伝いで雇われた少女・ふき(蒔田彩珠)も「登龍楼」の板場に入るだけで殴られたと言っていた。澪は、己の過酷な運命や、上方と江戸の味の好みの違いだけでなく、こうした江戸時代の女性への差別とも戦わなければいけなかった。

伝右衛門の言う「月の障り」とは生理のこと。こうまで言われた澪はカッとなって言い返す。

「美味しい料理を作るのに、男も女も関係ないのやありませんか? 料理を口にして『美味しい』と思った気持ちは、料理人が女と知っただけで消えてしまうものでしょうか?」

ノータイムで「消えてしまうでしょうな!」と言い返す伝右衛門が小憎らしい。でも、これが江戸時代の常識だったのだ。

伝右衛門は別の料理人を雇うが、やっぱり鱧は調理できず、さんざんな目に遭う。
しかし、料理人たちはこうやって未知の食材に取り組んで、失敗を重ねて今があるのだなぁ、と思うと少し厳粛な気分にもなる。フグの毒で死んだ料理人もたくさんいるはずだ。

鱧を料理しようとして失敗する喜の字屋の板長を演じたのは舞台俳優の大谷亮介。ほとんどセリフもないのに、頑迷さや妙なプライドがにじみ出ていて、良い味を出していた。

料理ドラマの王道パターン炸裂!


窮した伝右衛門は、澪に鱧の調理を任せる。鱧を調理する際、肝心なのが「骨切り」の技術だ。開いた鱧の身に、包丁を入れて小骨を切断していく。非常に難しい技術だが、澪がやってのけたのは、ひとえにあさひ太夫に食べてもらいたいという気持ちがあったから。

澪の「骨切り」を見ていた伝右衛門は、思わず「なんと典雅な」と漏らす。さすが吉原一とも言われる廓の主、審美眼はたしかだ。さらに出来上がった「ふっくら鱧の葛叩き」を食べて感涙する。

「鬼の目にも涙とはこのこと。
源斉先生、この伝右衛門、今日は心底参りました。さすが、先生が目をかけた料理人だけのことはあります」

「料理人(あるいは食材)が馬鹿にされる→料理人が実力行使→味に感動して謝る」という古き良きグルメものの王道パターンが踏襲されているのがわかる。見ている側に非常にカタルシスがある展開だ。

「料理の味わいは、美味しいと思う気持ちは、料理人が女と知って、変わったでしょうか?」

言葉だけ取り出すと、ちょっとキツく感じるセリフだが、黒木華は実に控え目に言う。だから伝右衛門も素直に「済まなかった」と頭を下げることができたのだろう。

翁屋を去ろうとする澪に、又次が特別のとりはからいをする。窓越しに、澪とあさひ太夫を会わせたのだ。言葉はなくても、涙を流しながら狐のサインをかわしあう2人。

「涙はこんこん」

離れていても、お互いの無事と幸せを願うことはできる。それぞれの想いは空でつながっている。原作のこのエピソードには「想い雲」というタイトルがついていた。

さて、『みをつくし料理帖』は本日が最終回。
ついに澪が小松原の正体を知る……! お見逃しなきよう。

(大山くまお)
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