
『チャプター2』ではケレン味だらけのディテールを見よ
前作『ジョン・ウィック』のラストから5日後、ロシアンマフィアを壊滅させたジョン・ウィックは、盗難にあったままだった愛車マスタングを奪還する。取り戻す過程でボコボコになった愛車を修理に出し、一息ついたところでナポリを拠点とする犯罪組織カモッラのボス、サンティーノが「権力争いの邪魔になるので、姉のジアナを殺してほしい」という依頼を持って現れる。
亡き妻との思い出の詰まった家を破壊され激怒するジョン。殺し屋時代に利用したホテル「コンチネンタル」のオーナーであるウィンストンに相談するが、貸し借りがある以上は依頼を飲むしかないが、仕事が終わればその後は対等だから好きにできると諭される。依頼を呑んだジョンは単身イタリアに向かいジアナ暗殺を果たすが、暗殺完了と同時にサンティーノはジョンの首に700万ドルの賞金をかける。世界各国の殺し屋たちに命を狙われる中、ジョンはサンティーノへの復讐を果たすことはできるのか。
「最愛の妻が遺してくれた愛犬が無残に殺された! 復讐だ!」というシンプル極まる前作のストーリーと比べると、どうしてもトーンダウンは否めないチャプター2。それに製作陣がどう対処したかというと、前作で「そこもっと見せて!」と誰もが思ったであろう殺し屋ホテル部分をモリモリ掘り返すことで、ケレン味溢れるディテールの連打で観客をノックアウトする方向に舵を切った。これは大正解だと思う。
ホテル内で「仕事」をしてはいけないというルールがある殺し屋御用達ホテル「コンチネンタル」だが、本作ではイタリア支部が登場。さらに多彩な火器を揃え客の要望に応じて銃を用意する銃器専門ソムリエやら、防弾繊維でできたイタリアンスタイルのスーツを仕立てる殺し屋専門のテーラーやら、『チャプター2』では裏稼業のプロたちを支える楽しいお仕事のみなさんがごっそり登場。完全に悪ノリである。
さらにキアヌとは『マトリックス』以来の共演となるローレンス・フィッシュバーンが牛耳るホームレスと伝書鳩によって構築された情報ネットワークや、殺し屋組織での「口座開設」の際の電話交換手とエアシューターとタイプライターを駆使したシステムなど、仰々しく歴史を感じさせる場面も盛りだくさん。
キアヌの練習量が画面から流れ込んでくるよ!
前作でも話題になったのがキアヌ・リーブス演じるジョン・ウィックの異常にキレのいい銃さばき。通常のコンバットシューティングと柔術の動きに加え、拳銃を胸に引き付けるように保持し、照準の際は顔のすぐ近くで大きく傾けて構えるCARシステムというテクニックを駆使。交戦距離に応じてテキパキと銃の構えを変えながら一対多の戦闘を切り抜ける様はカッコいいと同時に謎の説得力があった。
『チャプター2』ではこのアクション部分の内容がさらに濃厚に。特筆すべきはジョンの体さばきの中で総合格闘技っぽい動きのボリュームが大幅に増えている点だ。前作では一番近所にいる敵はまず銃で殴ったり体ごと当たるなどしてさばいていたが、今作ではまず組みつくか投げるかして一番手近な敵を転がし、そのまま関節をとったりしつつ遠距離の敵を射殺、最後に手元で極めている敵の頭を撃つ、という流れが基本パターンに。キアヌ、柔術の練習も一生懸命やったんだろうなあ……。
ガンアクションも納得のボリューム。アメリカなどで行われている射撃競技で拳銃・ライフル・散弾銃を使い分けつつターゲットを撃つ早さを競う3ガンマッチというものがあるが、今回はイタリアのカタコンベを舞台にこの3ガンマッチそのものの戦闘シーンが展開する。メイキングではキアヌがこの3ガンマッチを上手にこなす映像があったが、練習の成果はバッチリ。
『ジョン・ウィック』シリーズのアクションの魅力は、キアヌの圧倒的練習してる感が画面から伝わってくる点である。どんなに敵から撃たれまくっていても拳銃のマガジンを替えたあとはスライドを引いて中を確認するキアヌ。長い銃も短い銃もマガジンの交換が常に素早いキアヌ。弾が切れたライフルから拳銃にスイッチする動作に乱れがないキアヌ。しっかり練習して鉄砲という扱いが難しい道具を扱えるようになった人間にしかない安定感が、キアヌの動きからは滲み出ているのだ。この真面目で実直な人柄をうかがわせるアクションが、荒唐無稽な『ジョン・ウィック』シリーズのアクションを地に足のついたものにしている。人間をバンバン射殺しているのに「この人、真面目ないい人なんだろうなあ」という雰囲気を醸し出せるキアヌ・リーブス、つくづく稀有な役者である。
(しげる)