これまで、脚本家の菊村栄(石坂浩二)と、かつてスターだった老女優たちを中心に展開してきた『やすらぎの郷』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)だったが、

「長年テレビの現場を裏から支えてきた無名の人たちも、やすらぎの郷にはいっぱい住んでいる」

ということで第15週は、ビデオもCGもなかった……ドラマが生放送していたような時代から、テレビ美術界の職人として現場を支えてきた、ちのやん(伊藤初雄)と、かつてタイムキーパーをやっていたカメコ(長内美那子)という「名もなき」裏方夫婦の話。
「やすらぎの郷」第15週「夫婦はどちらが先に逝くべきか」中島みゆきの大合唱に涙を振り絞られる
イラスト/北村ヂン

定番の展開なのに引き込まれてしまう倉本マジック!


その昔、第1テレビで美術職人をやっていたちのやん。「やすらぎの郷」には「一時期でもテレビ局にいたものは入所する資格がない」とかいうルールがあったはずだけど……第1テレビって、テレビ局ではなく制作会社なのかな? まあいいか。


とにかく約半世紀ぶりに「やすらぎの郷」で菊村と再会したちのやんだったが、妻・カメコがガンで余命2〜3日と言われており、「夫婦どっちが先に逝くべきか」をずっと考えていた。

以前は「先に逝かれたらさびしくて生きていく自信がないから、絶対に先に逝きたい」と思っていたのだが、先に逝く方と残される方、どっちが辛いか考えた結果、「残される方が絶対辛い」「じゃあオレ、辛い方を引き受けてやろう」と考えを改めたのだという。

その言葉の通り、カメコをちゃんと看取った通夜の夜、追うようにちのやんも死んでしまう。

長年連れ添った夫婦のどちらか片方が死んだ後、残された方も追うように……みたいなエピソードは、ありがちといえばありがちだが、その定番展開にまんまと引き込まれてしまった。

死にゆくカメコのためにかつての仲間たちが集まって、好きだったドラマ『星の世界の洋子』のセットを再現してやる。そんな、古き良きテレビ業界を支えてきた美術職人たちの熱いプライド……的な話に気を取られていて、ちのやんまで死ぬなんていう展開は全然予想していなかったのだ。

考えてみれば、ちゃんと「夫婦どっちが先に逝くべきか」という前振りがあったわけだが、そこから別の話に目を向けさせておいての衝撃展開という巧みな流れは、さすが倉本聰というべきか。

……ちのやんの死が、前日の予告で完全にネタバレしていたのが若干残念だったけど。

菊村に語っていた言葉通りキッチリと妻を看取って、その翌日に逝ったちのやんに対し、菊村は「ちのやん、上手くやったな!」とつぶやいていたが、視聴者は「倉本聰、上手いなぁー!」と思わされたんじゃないだろうか。

中島みゆき+クルマの走行シーンで自動的に泣かされる


それにしても第15週の中島みゆき推しはすさまじかった。

オープニングの「慕情」が効果的に使われているのは当然として(誰かが死ぬと雨のオープニングになるのはお約束なんですね)、カメコが若い頃によく口ずさんでいたという「ファイト!」を、死を目前にして意識朦朧としながらも歌ってしまう姿。カメコをはげまそうと、ちのやんが小声で歌う「ファイト!」にもグッと来てしまった。

そして、ちのやんが亡くなった翌朝。
「やすらぎ体操」に代わって館内放送で流されたのが、夫婦で愛聴していたという「時代」。さらに葬儀の最中には「ファイト!」の大合唱まで起こる。

しかも、犬山小春自殺事件の後、認知症が悪化して一言もセリフがなかった及川しのぶが口火を切って歌い出したからビックリしてしまったよ。

ご存知の通り「ファイト!」のAメロはかなりクセのあるリズムで、合唱するには不向きな歌。及川しのぶにつられて、老人たちが次々に「ファイト!」を歌い出すのだが、普通だったらNGにするだろというくらいバラバラだった。でも、そのバラバラ感がむしろ、もの悲しさを際立ていたのだが。

倉本聰は『北の国から』でも、たびたび中島みゆきの楽曲を印象的に使用していたが、改めて中島みゆきに対する思い入れが強いんだなと思わされた今回の演出。

そして、そんな中島みゆきに主題歌を依頼したこの『やすらぎの郷』は、倉本聰的にも相当気合いが入っているドラマであることは間違いないだろう。

ところで、先週、先々週と中島みゆき&倉本聰がカメオ出演していたので、あの合唱シーンにもシレッと中島みゆきが混ざっているんじゃないか!? ……と思って探したのだが見つからなかった。感動シーンに中島みゆきと倉本聰がいたら絶対に笑っちゃうから、いなくて正解か。

そして、老人たちの「ファイト!」合唱からクロスフェードして、中島みゆき版の「ファイト!」に切り替わるのも反則! 出棺シーンに「ファイト!」をかぶせられたら、そりゃ泣くわ。

霊柩車の出発に合わせてサビに突入し、涙を絞り出されてしまった。


クルマが走るシーン+中島みゆきという組み合わせを見ると、『3年B組金八先生』第2シリーズで「世情」の流れる中、不良生徒たちが護送されていく歴史的名シーンを思い出してしまい、条件反射で涙が出ちゃうんだけど。

老人たちの恋心が燃え上がる!?


月曜日に初登場したちのやんは、水曜日の最後に亡くなり、木曜日にはお葬式と、たった4日間の登場なのにガッチリとインパクトを残していったが、金曜日にはさらなる衝撃展開が。

お嬢(浅丘ルリ子)が最近出会った娘が「なんとか菊村に会えないか」と頼んできたのだという。

その娘とは、安西直美の孫。

写真を見ると、若き日の安西直美にそっくりなのだ。

肉体関係はなかった(らしい)ものの、若き日の菊村が心奪われ、亡き妻・律子が自殺未遂を起こす原因ともなった安西直美にだ。

写真を見た菊村はかなりうろたえていたようだが、「(アンタが浮気心を出した)当時の直美ちゃんそのままだったわ」なんて、元妻である浅丘ルリ子から告げられた石坂浩二も、だいぶ複雑な気持ちになったのではないだろうか。

公式サイトの予告編によると、第16週は「やすらぎの郷」の老人たちが、恋愛に狂ってしまうようだが……。

まさか相手はその、20代そこそこの女(安西直美の孫)じゃないだろうな!?
(イラストと文/北村ヂン)
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