丸の内ピカデリーの帰りのエレベーター内はザワついてた。「人類の夢も希望も砕かれる」のコピーで公開されているSF映画『ライフ』終演直後の出来事だ。
火星から採取した未知の生命体「カルビン」は国際宇宙ステーション(ISS)の実験室で可愛らしい小型生物から、やがてとんでもないモンスターへ変貌してクルーに襲いかかる。これまで幾度となく描かれた密室空間での地球外生命体との戦いを描く本作。
そして「どうせそうくるんでしょ、ハイきた~っ」的なしてやったりのラストシーンは賛否両論。個人的には2017年、劇場で観た映画でNo.1の面白さだった。
『ライフ』で好演した真田広之
出演者は『ナイトクローラー』のジェイク・ギレンホール、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』のレベッカ・ファーガソンと実力派俳優を揃え、そして我らが真田広之もクルーの一員ショウ・ムラカミ役として登場する。
本作はこの真田が素晴らしいの一言だ。これまでのハリウッド映画の「明らかにその日本語の発音おかしいでしょ……」「なんで唐突に着物着てんの……」みたいな突っ込みどころはなく、日の丸をつけた勇敢なベテランクルーの一員を流暢な英語力で違和感なく熱演。
日本プレミア試写会で明かした撮影秘話では、無重力の宇宙ステーション内のシーンはワイヤに吊られっぱなしで、若い頃から無数のアクションシーンをこなしてきた真田の56歳という年齢を感じさせない動きに「ダニエル・エスピノーサ監督からは“マエストロ”と呼ばれた」と満足げに笑ってみせた。
数多くのハリウッド映画に出演
千葉真一のジャパンアクションクラブで鍛え、若手時代には危険なシーンでもほとんどスタントマンのような体当たり演技を見せていた真田の身のこなしはまだまだ健在だ。
ちなみに日大芸術学部映画学科では、今なにかと話題の船越英一郎と同級生……という最も危険なネタは置いといて、03年の『ラストサムライ』ではトム・クルーズ、07年の『ラッシュアワー3』ではジャッキー・チェン、13年の『ウルヴァリン: SAMURAI』ではヒュー・ジャックマン、『47RONIN』ではキアヌ・リーブスと共演。
他にも無数の海外ドラマに出演し、いまや渡辺謙と並んで日本を代表する俳優と言っても過言ではない真田広之。
“世界のサナダ”の誕生前夜に主演した映画
そんな“世界のサナダ”の誕生前夜に主演した作品が、95年公開の『EAST MEETS WEST』(イースト・ミーツ・ウエスト)だ。あの故・岡本喜八がメガホンをとり、1860年のアメリカを舞台に真田演ずる剣の達人・上條健吉(通称ジョー)が西部のガンマンたちと対決する娯楽作品。
時代背景の説明が長くなってしまうので簡単に説明すると、「アメリカ大統領からの要請を受け、日本から修好条約を結ぶため渡米した使節団だったが、現地の銀行に預けようとした多額の小判を強盗団によって強奪されてしまう。上條健吉は偶然銀行に居合わせ、父親を殺された少年サムとともに異国の地で彼らを追う復讐の旅が始まる」というシンプルなプロットだ。
「痛快無比! サムライ・ウエスタン登場! 250人のアメリカ人スタッフが集結し、ニュー・メキシコオールロケ敢行 鬼才・岡本喜八が世界に放つエンタテインメント巨篇」という派手な予告編は話題となった。
当時の真田広之と言えば、93年に主演したTBSドラマ『高校教師』で人気に火が付き、雑誌ananの「好きな男ランキング」で1位に輝くギラギラの35歳。
98年にはJホラーブームのきっかけとなる『リング』にも出演。そして、ほとんどが英語台詞のアクション映画『EAST MEETS WEST』とまるでトレンディドラマの正統派イケメン路線を拒否するかのような反逆の作品チョイスだ。
圧巻のクオリティだった真田の殺陣シーン
はっきり言って、『EAST MEETS WEST』はジョーと少年サムの心温まるやり取り、そしてそれをぶち壊す竹中直人の怪演の数々(あれはいったいどういう演出なのだろう……)が目立つが、ストーリー的にはほとんど語るべきところはない。
だが、とにかく真田の殺陣シーンが圧巻のクオリティで、それだけで充分に観る価値がある映画だ。銃に刀で立ち向かい、斬り殺す動きに説得力を待たせる殺陣ができるのは、地球上で真田広之だけではないだろうか。のちに『ラストサムライ』で、そのあまりの殺陣のキレ味にトム・クルーズがビビったというのも頷ける。
まだ30代中盤、アクションスター真田広之の全盛期の動きが体験できる『EAST MEETS WEST』はぜひその目で確かめてほしい。
ちなみに本作とは関係ないが、現在開催中の新日本プロレス『G1 CLIMAX 27』での個人的な最注目選手はSANADAである。
『EAST MEETS WEST』
映画公開日:1995年8月12日
監督:岡本喜八 出演:真田広之、竹中直人、岸部一徳
キネマ懺悔ポイント:41点(100点満点)
公開当時は為次郎(トミー)役の竹中直人の演技がうるさすぎると話題に。 翌96年のNHK大河ドラマ『秀吉』でハイテンションの豊臣秀吉役を演じた竹中は伝説の作中「横チン露出事件」を起こすことになるが、それはまた別の話だ。
(死亡遊戯)
※文中の画像はamazonよりEAST MEETS WEST [DVD]