iPhoneで出産を海外の夫に実況中継 女性起業家の「遠隔育児」プロジェクト
(画像はイメージ)


働く女性が出産・育児に対峙するとき、相当のパワーが必要だといわれる。ある女性起業家は、出産一か月前に夫の欧州赴任が決定し、さらに困難が舞い込んできた。


そこで決意したのは、夫婦二人で「遠隔育児」をすること。出産時にはテレビ電話で、欧州の夫に向けて実況中継したという。産後も、離れた夫との育児をプロジェクト化してうまく乗り越えている。

無痛分娩だからこそできた出産の実況中継


iPhoneで出産を海外の夫に実況中継 女性起業家の「遠隔育児」プロジェクト
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その女性起業家とは、企業の役員やリーダーのコーチング及び、働く女性のキャリア支援を行う株式会社MANABICIA代表の池原真佐子さんだ。臨月になったときにはすでに夫が欧州へ単身赴任をしていたという。

「夫には、特に立会いしてほしいなどは考えていませんでした。陣痛が起こって分娩室に運ばれ、無痛分娩の麻酔をしてもらった後、出産まで痛みもなく余裕があったので、看護師の方に、Wi-Fiで繋いでもいいかと聞いてみたんです。すると『今回のみ特別に』と、分娩室でのWi-Fi接続とiPhoneのテレビ電話『FaceTime』による中継の許可が下りたんです。子どもが出てきたときは、看護師さんなどもカメラワークを手伝ってくれました」

夫はどんな風に出産を見守っていたのだろうか。

「分娩室に運ばれてから約7時間後に産んだのですが、『生まれるかも』というときは、ちょうど夫は帰宅している時間帯だったので、タイミングよく出産に遠隔から立ち会うことができました。夫は落ち着かなかったようで、うろ覚えですが、ビールを片手に、iPhoneの画面の前に張り付いていたような気がします。遠く離れた国で時差があっても、感動の瞬間に夫に立ち会ってもらうことができるなんて、まさにITの進化だなとしみじみしました」

出産・育児をプロジェクト化


iPhoneで出産を海外の夫に実況中継 女性起業家の「遠隔育児」プロジェクト
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その珍しい取り組みは、決して出産中継だけではない。池原さんは、妊娠中から、出産・育児を「プロジェクト」としてとらえ、次の項目を実施していたという。

・妊娠中にすべきことを前期・中期・後期でエクセルにまとめる

・提出書類のフォルダ・役所への届け出方法のガントチャートを作る

・提出書類をプリントアウトしておく

・産後使う子供関係の書類に子供の名前や生年月日などを記入し、コピーしておく
例:病気の時の病児保育園へ毎回提出する書類など

・出産・育児にまつわるステップを明確にする

・認可・認可外・認証保育園のマップ作り
自宅からの距離、預かり時間、園の方針、なども調べて記入

・保育園下見と仮予約のスケジュール作成

・日用品、食品のオンラインスーパーなどの登録

・産後の「外部連携リスト」の作成
→家事、シッター、一時預かりなど、家事育児に関してどういうサービスがあるか、料金や手続き方法などをリスト化

・外部連携リストのうち、利用しそうなものは登録


こうした出産・育児のプロジェクト化は、池原さんにとって「やりたくて行った」というよりも、「やむを得ず」のことだったそうだ。


「臨月から一人で手続きなども行わなければいけなかったので、できるだけ、出産準備や、産後の負担を減らしたいと思っていました。
前倒しで、夫婦で力をあわせて、出産前後にすべきことをシミュレーションしたり、複数のママにヒアリングをしたりして、やるべきタスクを明確にしていきました。
やむを得ずプロジェクト化しましたが、やってみて本当に良かったと思っています。夫の『父親』としての意識、『パートナー』としての責任感も増しましたし、私も手続きなどの準備はほとんど終わらせていたので、産後がとても楽でした」


育児のアウトソーシングの考え方


池原さんは、シッターや一時預かりなどの「外部連携」を積極的に利用している。だがこうした育児のアウトソーシングには、抵抗のある人も多いといわれる。池原さんはどのような考えを持っているのか。

「育児のアウトソースに抵抗があるのは、子供をあやすなど、直接子供と触れ合うコミュニケーション部分もアウトソースすると誤解されているからだと思います。確かに子供は『愛着形成』といって、固定の大人と、強い絆を作る必要があります。しかし、育児には、直接触れ合うこと以外にも、『子供用品や食品の購入』『病気の時の預かり場所を探して予約する』『子供服や布団やぬいぐるみの洗濯』『離乳食作り』など、コミュニケーション以外のところも多いのです。こうした部分を他の方にお願いするのは問題ないと考えています。
つまり、ベビーシッターや両親、保育園に預けたりすることイコール、『コミュニケーションや愛着形成の放棄』ではないということ。ここの誤解が、多くの女性を苦しめていると思います」

池原さんは、核家族化が進んでいる今、両親、特に母親が、家事も育児もすべて一人で抱え込んでいくことには限界があると語る。

「家事も育児も、お金をかけなくても、ITで効率化するところはする、シェアリングサービスなどを使ってアウトソースするところはする、重要でないことはいっそやらない、などの決断も大事です。

最優先すべきは、両親が心身ともに健やかな状態で、子供を慈しむ時間を多く持つこと。何もかも抱え込み、すり減ってイライラしながら子供と会話する気力もない状態というのは本末転倒ではないでしょうか」

遠隔育児が成功したポイント3つ


夫が単身赴任という状況下、池原さんは遠隔による夫との連携を欠かさなかったという。その遠隔育児が成功したポイントを聞いた。

●夫にお願いできることはどんどんお願いする
「遠隔からでも、子供用品をネットで買ってもらう、子供の体調が悪いときにネットなどで対処法を検索してもらうことなどはできるので、そのような部分の育児はどんどんお願いしました。最近では、1歳以降の予防接種のスケジュールをエクセルで作ってもらいました」

●一緒にいるときよりもマメに「自分や子供の状況」「自分の感情」をシェアする
「遠隔だと当然、子どもの状況や自分の感情を直接伝えにくいものです。そこで気を付けていたのは、一緒にいるときよりもマメに状況や感情をシェアすること。これにより、物理的な距離を埋めることができます」

●ささいなことでも感謝し合う
「子供が風邪を引いて私が病院に連れて行ったときも、夫は『連れて行ってくれてありがとう』と言ってくれる。このような感謝の言葉があるだけで、大変なことも乗り切れました」

これから遠隔育児をする夫婦はもちろん、共に暮らす夫婦であっても、プロジェクト化や夫婦連携のコツは何かと参考になる。ポイントは抱え込まず共有、連携することにありそうだ。
(石原亜香利)

取材協力
池原真佐子さん
早稲田大学・大学院(生涯教育専攻)卒業後、PR会社、国際教育のNPO、コンサルティング会社などを経て、INSEADのExecutive Master in Consulting and Coaching for Changeというパートタイムの修士コース に国際通学。コーチング・臨床組織心理学の修士号を取得。企業の役員やリーダーのコーチング、働く女性のキャリア支援を行う(株)MANABICIA代表を務める。
著書に「自信と望むキャリアを手に入れる 魅力の正体 ~コンプレックスを強みに変える実践的レッスン~」(大和書房)。
MANABICIA:http://www.manabicia.com/
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