今シーズンも広島カープが止まらない。
貯金28で首位を突っ走る赤ヘル打線のチーム打率.280は12球団1位。
104本塁打、75盗塁もリーグトップだ。もちろん522得点は2位DeNAの385得点に大差をつけてぶっちぎりのトップ独走である。(数字はすべて8月1日終了時。さりげなくチーム防御率3.28も阪神と並んでトップタイというデータは原稿の都合上置いといて)
やはり打ち勝つ野球は球場も盛り上がる。

98年横浜の「マシンガン打線」、90年代後半の日本ハム「ビッグバン打線」、2000年巨人の「ミレニアム打線」、01年近鉄最後のリーグ優勝に導いた「いてまえ打線」、00年代前半のダイエー「ダイハード打線」といまだに野球ファンの間で語り草となっている「○○打線」は数多い。

89~90年オリックスの「ブルーサンダー打線」


そんな中、強力打線と言えば89~90年のオリックスを思い出す人も多いのではないだろうか。なにせ名称が「ブルーサンダー打線」である。

まるで往年のコロコロコミック『ダッシュ!四駆郎』に登場しそうなネーミングセンス。もちろん『サタデー・ナイト・フィーバー』を撮ったジョン・バダム監督のアメリカ映画『ブルーサンダー』とは何の関係もない。

1970年代に最強と謳われたシンシナティ・レッズの打線「ビッグレッドマシン」を参考に、当時のオリックスの紺と黄色のユニフォーム=ブルーサンダーという発想。若い女性に大ヒット中! おいしさイナズマ級! それはみんな大好きチョコのお菓子のブラックサンダーだ。

「ブルーサンダー打線」誕生のきっかけ


89年、阪急からオリックスへと球団譲渡後の初年度、同じくダイエーへと身売りした南海の主砲・門田博光をトレード補強。門田は前年に40歳にして44本塁打、125打点で二冠獲得。MVPにも輝いた。
そんな不惑のスラッガーが「福岡は遠い」と関西の球団に移籍志願するわけだ。
結果的にこの移籍が「ブルーサンダー打線」誕生のきっかけにもなる。89年オリックス打線の中軸を振り返ってみよう。

3.ブーマー(3)率.322 40本 124打点
4.門田博光 DH 率.305 33本 93打点
5.石嶺和彦(7)率.277 20本 77打点
6.藤井康雄(9)率.292 30本 90打点

4人合わせて計123本、384打点。さらにトップバッターは打率.309、17本塁打をマークした松永浩美である。

この年、凄まじい破壊力を誇ったブルーサンダー打線を武器に開幕8連勝を飾り、序盤からペナント独走。8月には一時2位に転落するが、そこから盛り返し121試合目にマジック9が点灯。
近鉄とともに黄金時代の西武をあと一歩まで追い詰めるが、ホームランを打った門田が出迎えた巨漢ブーマーとハイタッチして右肩を脱臼するというなんだかよく分からないアクシデントにも見舞われ、オリックスはゲーム差「0」の2位に終わる。最後は近鉄ブライアントの神がかった爆発力に優勝をさらわれた。

90年も火を噴いた「ブルーサンダー打線」


それでも、「ええで、ええで、打って、打って、打ちまくったるで~」と翌90年も故・上田利治監督率いるブルーサンダー打線が火を噴いた。

3.門田博光 DH 率.280 31本 91打点
4.石嶺和彦(7)率.273 37本 106打点
5.藤井康雄(9)率.285 37本 96打点

全員30本、90打点をクリアする超強力クリーンナップを擁したチームは本塁打、得点数ともに12球団トップ。6月中旬には首位西武を0.5差まで追い詰めるも、最後は森ライオンズの圧倒的な強さに突き放され、2年連続の2位に終わった。

なんでや……これだけ打っても西武には勝てないのか……。
厳しい現実を突き付けられたオリックスは打撃から投手力重視の守りの野球へとシフトチェンジを目指し、オフに巨人V9戦士の土井正三を新監督に迎える。
同時に90年8月13日には翌年からチーム名をブレーブスからブルーウェーブへ、本拠地も西宮球場からグリーンスタジアム神戸へと移転することを発表。

ブレーブスからブルーウェーブへ


当時、西宮では愛称の変更と移転に反対する著名運動も展開されたが、身売り時に神戸移転は既定路線だったという。阪急ブレーブス時代から延べ15年に渡りチームを率いた上田監督のコメントがまた泣ける。
89年には「土台作りの1年。ここから常勝チームを作る」なんて高らかに宣言するも、わずか1年後には「ブレーブスの名は消えるが、勇者魂を忘れないでくれ」という名言を残し辞任。こうして翌91年シーズンを境に球団は本格的に名門阪急ブレーブスに別れを告げ、リスタートを切る。

ひとつの時代の終わり。そして、その年のドラフトでオリックスから4位指名を受けたのがブルーウェーブの申し子、あの鈴木一朗である。
(死亡遊戯)


(参考資料)
『週刊プロ野球 セ・パ誕生60年』1989年、1990年(ベースボール・マガジン社)
『プロ野球1990年代』(ベースボール・マガジン社)

※文中の画像はamazonよりオーナーズリーグ07 レジェンド FLEブーマー 阪急ブレーブス(現オリックス)
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