連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第18週「大丈夫、きっと」第105回 8月2日(水)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出:田中 正
「ひよっこ」105話。実際のところ、女優とお父ちゃんはどれくらいの関係なのか
イラスト/小西りえこ

連続朝ドラレビュー「ひよっこ」105話はこんな話


みね子(有村架純)から手紙をもらって、奥茨城の母・美代子(木村佳乃)は、実(沢村一樹)に会いに、東京へやって来る。

マラソンで言ったら、岡田惠和は後半型だ


104回の視聴率は、22.5%。104回中の最高視聴率となった。
このところ、20%を超え続け、注目度が上昇している「ひよっこ」。

前半は快調だが、後半失速してしまうドラマもある中、「ひよっこ」は、前半は飛ばさず、マイペースなスローペースで走りながら、コツコツと登場人物のキャラクターを丁寧に描き続け、彼らに十分、愛着を深めさせたところで、ガツン!と根源的な問題に切り込むドラマチックな展開で、一気にスピードを速めていく。半年間の朝ドラという長距離走の走り方をわかった、健脚・脚本家(略したら健脚本家)岡田惠和の技に拍手を贈りたい。このへん、増田明美に解説してほしい。

序盤から行方不明になっていた、家族思いのお父ちゃん・実の行方が2年半経過したところで、ようやく判明。だが、彼は、給料狙いのひったくり(村上航)に暴行を受けたことにより、記憶喪失になっていた。そして、有名女優・川本世津子(菅野美穂)に助けられて、彼女の家に一緒に住んでいた。

これまでの人生を忘れ、妻のことも子供のことも忘れて、誰もが憧れる女優と、メゾネット形式の豪奢なマンションに暮らすという、まったく別の人生を送るお父ちゃんのことを知った、娘・みね子と妻・美代子の心境はいかに。これはもう、観ないといられない展開である。


今から見ても、間に合う「ひよっこ」


105回は、なんとなく今週から観はじめた人にも、だいたい状況が察せられるような親切設計だった。
まず、奥茨城村での家族の仲睦まじさの回想。
美代子が一度、東京に探しに行って、夫の劣悪な就業環境を見たこと(だから、いやになっていなくなってしまったんじゃないか疑惑もあった)の回想。
さらに、都会が冷たく、出稼ぎ労働者を一括りにとらえていることを、当事者たちは、一寸の虫にも五分の魂とばかりに、美代子は「奥茨城村で生まれ育った谷田部実という名前がある」と主張していたことの回想。

父が帰ってこないため、みね子が東京に働きに出たことの回想。
などなどが、次々、紹介されていく。
これで、一気に、美代子とみね子、残された者たちの、2年半もの、苦悩が復習できる。と、同時に、記憶を失った名前をなくしたかのような実への、(あなたには)「奥茨城村で生まれ育った谷田部実という名前(や歴史)がある」と叫びたい美代子の今の心情のように感じさせる効果もあった。

東京に出かける時に、仏壇に手を合わせ、そこにしまってあった結婚指輪をはめる美代子の表情も、夫に会いに行く、残された妻の複雑な心情が見える(宗男を追いかけて東京に来た奥さんも指輪していました)。

今日の名台詞 「半分」


実がみつかったのか? と聞かれ「半分ね」と答える美代子。
言葉数の少なさが、彼女の不安な思いを端的にあらわしている。

今日は、愛子が


104回は、鈴子(宮本信子)に、みね子へ適切なアドバイスをする役割を譲った形になった愛子だったが、
105回では、彼女の番。
世津子のところへ、母と共に、ある意味、乗り込んでいく直前のみね子に、アドバイスした。
みね子の、他人のことを考え過ぎるところの、良い点悪い点を指摘。
「今日のあなたはお母さんだけ見てなさい」と言う愛子。
このターンは、みね子の苦しみよりも、夫が他の女性と2年半も暮らしていたという事実を知った妻の心情に寄り添うものである。

みね子が一度恋と別れを経験した後だからこそ、母や世津子の女の心情も理解できるという準備も万全だ。


木村佳乃(お母ちゃん)、大丈夫だ、菅野美穂(女優)に、美貌という点において、全然負けてないとは思うものの、女優とお父ちゃんが2年半一緒に暮らしていて、いわゆる「一線を超えていないのか」「いるのか」ってことは、やっぱり気になる。

そんな俗っぽいことを書きながら、ちょっと真面目な話に戻すと、ちょうど、奥茨城村で、美代子が心を痛めながら、東京に向かうこのターンで、現実の世界では、放送前夜とその朝、茨城でちょっと大きめな地震があった。こちらも、「大丈夫、きっと」だといいなと願っております。
(木俣冬)
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